88 女王蜂様 やぎさんゆうびん
おおう。僕の体を包む白い光はどんどん強くなる。
紗季未も「栄養食品」を食べる手を止めて、僕の方を見ている。
「こうちゃん。変身する……の?」
僕はチラリと蜂野先生の方を見る。この後、先生が誰かのおしりを触りだし、僕の変身が止まったことが何回かあったからなー。
「あっそれっ! ♪い~まだ、いまこそー、へーんしんだー」
先生、僕の知らない、多分古いヒーローソングらしきものを歌ってるし。恒未はキャッキャッキャッキャッといつも通りの大喜び。
おおっ、何かがこみ上げてくる。今度こそ今度こそ変身するのかーっ?
◇◇◇
僕は変身した。
いや、マジです。信じて下さい。今まで何回もするする言ってしませんでしたから。無理もないですが、変身しました。
とんがり帽子に黒い服。右手には杖。これは……
「ふふふ。あーははは。やっぱり、こうちゃん。ゲームキャラの錬金術師だよー」
紗季未は大爆笑。うーん。なんか悔しいぞ。
蜂野先生は何事もなかったような顔をして、恒未に「栄養食品」を食べさせようとしていたが、恒未は僕を指差して「アーッ、アーッ」と連呼。
そんな蜂野先生たちを見て、紗季未はドヤ顔で一席。
「見ましたかーっ、蜂野先生! 見たよねーっ、恒未ちゃーん! こうちゃん。錬金術師になりましたーっ! しかもっ! 『美少女』にはなっていませーん」
蜂野先生、冷静な顔をしてみせて
「まあ~、自分の彼氏が『女体化』しなくて喜ぶ気持ちは分かるけど、ほどほどにねん」
それを聞いた紗季未は真っ赤。でも、すぐに立ち直る。強いぞ紗季未。
「そそそ、そんな話は置いといてですね。賭けは私の勝ちですね」
「は? 賭け?」
「あーっ、またとぼけてるー。こうちゃんが何に変身するか賭けをして、『美少女』にならないって賭けたの私だけだったじゃないですかー」
「北原さん。いけないわ。それは『賭博罪』という犯罪よん」
うわー。蜂野先生、今それを言いますか? ひど。でもっ、紗季未はめげないっ!
「先生~。その手帳に誰が何に賭けたか記録してましたよね。私、ちゃんと見てたんですよー」
「あ、これねん」
蜂野先生、手帳を開いて、該当のページを出す。
「そう、それです」
紗季未の言葉とともに、ビリビリビリとページを破くと……
…………
…………
…………
口の中に放り込んだ。
◇◇◇
「!」
さすがに紗季未は絶句。
その時、僕の頭の中にはあるメロディーが繰り返し流れていた。
そう。「やぎさんゆうびん」
蜂野先生は口の中をモグモグと動かして一言。
「美味しくないわん」
そりゃそうでしょうよ。




