87 女王蜂様 またも栄養食品を提供する
「まあまあ」
もう何度目かのプンスカ状態の紗季未をなだめる蜂野先生。
「あたしの部屋行って、おやつ食べましょ」
おやつって、あの「栄養食品」ですよね。僕はもう食べませんよ。紗季未は何ともないの?
「うん。あれからも何ともない」
ならいいか。「あたしの部屋」が校長室を勝手に乗っ取ったものであることは今更突っ込むまい。
◇◇◇
イラストレーション 秋の桜子様
やはりあれだ。
「でも何で3つ出てるんですか? 僕は食べませんよ。そんな男が食べると妊娠するようなものを」
「まあ、あたしは新川君が何人あたしの子を産もうが知ったこっちゃないけどね。3つ目はこの子の分だよ」
蜂野先生は恒未を右肩から椅子の上に下ろす。恒未は例によってキャッキャッキャッキャッと大喜び。
「えー? 生後2日でそれ食べちゃって大丈夫なんですか?」
「ん。恒未は将来の女王蜂様だからね。まあ、あたしの『次』じゃないけど」
ん? 恒未が将来の女王蜂様だから、この「栄養食品」を食べる。そして、恒未が蜂野先生の次の女王蜂様ではないってことは……
もはや、蜂野先生はスプーンで「栄養食品」をすくって、恒未の口まで持って行く。恒未はそれを口に含んで、大喜び。
そして、紗季未は大騒ぎ。
「キャーッ! 恒未ちゃんっ! カワイイーッ! 先生っ! 次は私に食べさせてくださいっ!」
「お姉ちゃんがああ言ってるけど、どうする?」
蜂野先生は恒未の顔を見て、問いかける。
恒未はじーっと紗季未の顔を見たが、やがて、蜂野先生の方に向き直って、「アーッ」と言った。どうも次の一口を蜂野先生から欲しがっているらしい。
◇◇◇
ガーンッ
そんな効果音が聞こえてくるんじゃないかと思ったほど、紗季未は落ち込んだ。何か前もこのパターンあったね。
「そう…… そんな冗談でしか生きてないようでも、やっぱりママから食べたいのね」
うん。そのパターンも前もあったね。
蜂野先生は以前はこのパターンで苦笑していたけど、今度は真剣な顔で言った。
「いずれ恒未の方から北原さんのところに行くことになるはず。その時はもうそんなに遠くない」
おやと僕は思ったが、既に紗季未はやけ食いのように「栄養食品」を食べていた。蜂野先生は恒未にゆっくり食べさせているし、手持ち無沙汰になった僕は窓から外を眺めてみた。
外では女の子たちが畑に水撒いたり、牛と羊、鶏の放牧をやっている。みんな、イキイキとして楽しそうだなあ。あいつらゲームの「農場物語」が好きだったんだよな。いいなあ、好きなことをゲーム好きの仲間たちとやってて。
あれ、伊藤たちの「ドラゴンコンクエスト3」のパーティーが出発しようとしている。何かのクエストかな? それを動画班の「子リスツインズ」こと片貝ツインズが撮影している。みんな、楽しそうだなあ。
うわっ、僕の体全体を包む白い光が明らかに今までより強い。これは……




