84 女王蜂様 右手の人差し指を振る
「さあ、張った張ったって、『美少女錬金術師』多いわねえ。武闘家の鈴木君。『美少女錬金術師』の一点張りの3千円。思い切ったわねえ。自信あるの」
蜂野先生に問われた武闘家の鈴木、堂々と胸を張って答える。
「ええっ、もうっ! 新川は色んなゲームやりますが、一番はまってたのは『アルケミストシリーズ』ですっ! こりゃあもう間違いありませんっ!」
くそお、力強く言いやがって、でも否定できないのも事実。
「揃いましたか? 揃いましたね? おっと、一人忘れるところだったわ。北原さんはどこに張るの?」
この賭博、僕以外は強制参加ですか?
問われた紗季未はゆっくりと口を開く。
◇◇◇
「私……も『錬金術師』だと思います。だけど……」
「だけど?」
「『美少女』にはならないです」
淡々とそれでいてどこか自信のありそうな微笑を見せる紗季未。
「ほう。ゲーム、アニメ、マンガ、ラノベでこよなく美少女を愛好した新川君が『美少女』にならない? その理由は?」
「ふふ。蜂野先生には分かりませんか? こうちゃんが『美少女』にはならないって」
「ほうほう。それでは新川君は『熟女趣味』か『幼女趣味』に転向したと?」
「ふふ。先生。動揺させようったって、駄目ですよ。こうちゃんは女性にはなりません」
その時の紗季未の笑顔をどう形容したらいいのだろう。
凛として、柔らかくて、優しくて、可愛くて、僕は思わず目が釘付けになってしまった。
それは僕だけではなかった。勇者の伊藤と武闘家の鈴木も見入っていた。もっとも奴らは魔法使いの田中さんと僧侶の中村さんに思い切り耳を引っ張られていたが。
◇◇◇
少し不機嫌そうな顔で蜂野先生は僕の方を向き直した。
「ふん。まあ、すぐに結果は出るわって、えっ?」
先生は僕の方を見てびっくり。
「何よお、新川君。白い光が消えちゃってるじゃないの」
いえ、伊藤たちのパーティーの戦闘を見て、気分が高揚しましたが、その後、蜂野先生が賭場を開帳したあたりから、気分がどんどん萎えてきて、白い光が消えました。
「萎えたあ? まだ若いのに持続力がないわねん。やっぱ朝に、もうちょっと精力のつくもの食わせるべきだったかしらん」
「何の話をしてるんですか? それより、これで賭博はチャラですよね?」
「ちっちっち。ちっちきちぃー」
蜂野先生はおもむろに右手の人差し指を振った。
「新川君の器なんかちっちゃーいんだから! どうせすぐに変身するわよん。賭博は継続!」
くうっ、いつものことながら言いたい放題言われてるなあ。