79 女王蜂様 英語を話す
最初に僕に話しかけて来たのは白人女性だった。空を飛び交う銀河鉄道の列車を指差して、何か言ってる。
でも、こめんなさい。聞き取れたのは「galactic railway」だけでした。
次は隣にいた黒人男性が話しかけて来た。これも分かったのは「hachiman football club」だけ。
ちきしょー。蜂野先生、どこに隠れたー。どっかに隠れて見てるんだろー。
◇◇◇
そこへスッと前に出たのは紗季未。
流暢な英語で笑顔で会話。そう言えば、貿易商の娘だったね。
それにしても、昨晩あたりから、僕は紗季未にかっこ悪いことばっかりだよなあ……
などと落ち込んでいると……
「こうちゃん。こうちゃん」
◇◇◇
「ん?」
「この人たちが一緒に記念写真撮りたいんだって、来て」
「うん。でもなんでまた。僕たちまで一緒に?」
「ふふふ」
紗季未はちょっとドヤ顔。
「この人たち蜂幡FCのファンなんだって。私が移籍してくると噂になっているタクヤ・キタハラの姉だって言ったら、盛り上がっちゃって」
「あ、ああ」
「それにこうちゃんも監督の息子だって言ったら、更に喜んじゃって、それにね」
「うん」
「世界中で凄い話題になっている空飛ぶ銀河鉄道も見に来たというから、あれ作ったのはこうちゃんのお兄さん、あれ今はお姉さんだっけ? まあいいや。そうだって言ったの」
「そうかあ」
「そしたら、ぜひ一緒に記念写真を撮りたいって。一緒に来て」
腕を引っ張られる。笑顔で結構強い力だよ。
◇◇◇
そして、僕たちは手持ちのスマホで代わる代わる写真を撮った。みんな笑顔で楽しそうだ。
外人さんたちは最後まで僕たちに名残惜しそうに手を振ってくれた。そして、最後に何か言った。
例によって、僕は聞き取れなかったけれど、紗季未が教えてくれた。
「蜂幡市は世界で一番ファンタスティックだと言ったんだよ。出来たら住みたいくらいだって」
そうなんだ。今の蜂幡市はそんなに……
しかし、僕の感慨は長くは続かなかった。
「ふっ、ふ~ん。やっぱヘタレDTは英語も駄目ねん。紗季未によっく感謝しなさいよん」
「あっ、先生! 先生だって外人が来たら、隠れちゃったじゃないですかあ」
「英語くらい出来るわん。でも、敢えてあなたたちにチャンスを与えて、見守ってたのよん」
「またまたあ、じゃあ、英語、話してみてくださいよ」
「Oh yeah! I can't speak english!」
「はい?」
「Oh yeah! I can't speak english!」
もう、何回目かしれませんが、やっぱり全身の力が抜けました。
◇◇◇
かくて、歩いて学校に向かう僕たち。先頭はもちろん大股歩きの蜂野先生。続いて、筋斗雲に乗った猿渡君と恒未。最後に僕と紗季未。
紗季未は何か上機嫌。良かった良かった。
そこで、「あーあー」と恒未の声。何か見つけたの? 父親の僕は強度の乱視にド近眼だけど、君は目がいいね。
♪ちゃーちゃららちゃちゃちゃちゃ~ ちゃちゃちゃ ちゃ~
♪ちゃーちゃららちゃちゃちゃちゃ~ ちゃちゃちゃ ちゃ~
この音楽! ゲーマーの僕にはもちろんのこと 普通の人でも知っている 日本いや世界的にその名の高いRPGの序曲!
何だ何だ? 何が始まる?




