73 女王蜂様 ファイナルアンサー?
「B!」
僕は言いましたよ。これ以上、蜂野先生と母さんの倒錯した世界に巻き込まれたら、正直、メンタルが持ちません。
紗季未の方を見ると、顔は真っ赤なままだけど、睨みつけるようだった目つきは柔らかくなっていた。
◇◇◇
「B……」
蜂野先生の顔は大物司会者ものみんたさんのまま。つまり、近い! 怖い!
「ファイナルアンサー?」
「ファ、ファイナルアンサー!」
僕は頑張った。大物司会者ものみんたさんから目をそらさなかった。
♪ちゃらら~ん
再び流れるBGM。漂う緊張感。
◇◇◇
「だったら、とっととこの家から出て行きなさーい。このヘタレDTッ!」
蜂野先生はおもむろに立ち上がると、僕を足蹴にした。ひど。
「あたしはこれから母さんとベッタベタのネットネトのくんずほぐれつの愛欲の世界に突入するんだからねっ! 恒未ちゃんは、おねむだからいいけど、あんたたちは邪魔なのよっ!」
ひでえ。なんつー言いようと思っていたら、右の袖を引っ張られた。
振り向くと紗季未だった。
「私の家に…… いっしょに行こう」
そんなことを言われてはもう…… はい。一緒に行きます。
◇◇◇
紗季未の家には小さい頃から何度も行っているから、どこに何があるかも知り尽くしているし、トイレにも案内なしで行ける。
だけど、いわゆる「彼氏彼女」の関係になってから行くのは初めてだ。
子どもの頃は二人きりで留守番したこともある。
だけど、今回のこの緊張感は……
◇◇◇
「あ、あのね」
「はい。何でしょう。紗季未さん」
「これからお風呂沸かすから、先に入る? 後に入る?」
おっ、おおお、お風呂ーっ!
いや、これだって小学校一年くらいまでは一緒に入っていたんだあ。い、いえ、今、一緒に入りたいだなんて、微塵も思っていませんよ。はい。
「えーと、やはりこの家の住人である紗季未さんが一番風呂に入るのが筋だと思うのです」
「そ、そう。じゃあ、先に入らせてもらうね」
お風呂場の脇で水音を聞いていたいような気もしたが、僕は紳士なのだ。決して、ヘタレではないっ!
リビングで悶々として待つこと約20分間。その時間は長かったような短かったような。
◇◇◇
「空いたから入って」
風呂上がりの紗季未は、石鹸の香りの中にほのかに漂うシャンプーの香り。
濡れた髪にはタオルを巻いて、パジャマ姿。
う、うーん。僕の体の奥底の…… その…… 何かがうずくような……
「あ、そうそう」
立ち去り際に振り向く紗季未。
「な、何でしょう?」
「お風呂から上がったら、私の部屋に来てね」
ぐわーん。そ。そいつあ、どういう意味でしょう?
紗季未の入った残り湯につかる僕が落ち着ける訳などないのであった。




