72 女王蜂様 昭和のオヤジになる(前からか)
ブリのかぶと焼きじゃないのだ。「マグロ」である。
普通は宴会料理で大人数で分けて食べるもんでしょ。
それを蜂野先生一人で食べるんですか?
と僕が突っ込む間もなく、紗季未は淡々と蜂野先生用「スペシャルメニュー」を持ってくる。
うん。君はもう台所で驚き尽くしてしまっているんだね。
以下、
野菜サラダ=蜂野先生の分だけバケツに盛られてきた。
味噌汁=蜂野先生の分だけ洗面器に入ってきた。
ごはん=蜂野先生の分だけお櫃1つ分専用できた。
日本酒=「銘酒ドラゴンロケット」「ゴリラの猿酒」「信楽狸のぶら下げてる酒」それぞれ一升瓶一本ずつ。計三本。すなわち三升。
亡くなられた元横綱輪島大士さんが一気に二升を空けたと聞いたことがあるが、三升となると記録もんかもしれない。
◇◇◇
「いっただっきまーすっ!」
満面の笑みでごはんをかきこむ蜂野先生。もちろん、いっときたりとも黙ってはいない。
「また、そこで新川君がだっせえのよ。ガハハハ。もう、ヘタレでヘタレで」
相変わらずごはんつぶ飛ばす飛ばす。隣でニコニコしながら聞いている母さん。顔にばんばんごはんつぶが飛ぶが、意に介さない様子。ある意味凄い。
まあここまではまだ良かったんだが、酒が入ってからは更にスケールアップした。
右腕で母さんの肩を抱くと、
「ああっ、母さん、可愛いんだから、もうっ!」
そして、母さんの顔に接吻の嵐。あの実の息子がすぐそばで見てるんですけど……
「うーん。可愛い可愛い。どうだい母さん、今夜はおいちゃんとしっぽりと…… んっ? んっ?」
昭和のオヤジ? それとも、ビートたけしのギャグ?
◇◇◇
蜂野先生、急に真顔に戻り、僕と紗季未を振り向いた。えっ?
「パンパカパーン。そういう訳で、今夜、この家はあたしと母さんの愛の巣になりましたあっ! あんたたち二人は、この家から出て行きなさ~いっ!」
! へっ?
「まあ、新川君があたしと母さんの愛欲の嵐に巻き込まれたいってんなら、それはそれでいいけどね。さあどうする? どうする? スチャラカチャン」
えっ、えーと……
蜂野先生。更に姿勢をただすと、僕の顔に顔を近づけてきた。ち、近いっ、近いっ! それにまた紗季未が怒るから……
「A 今夜はあたしと母さんの愛欲の嵐に巻き込まれる B 今夜は紗季未ちゃんの家に泊まる ファイナルアンサー?」
♪ちゃらら~ん
何故か流れるBGM。おまけに蜂野先生の顔が大物司会者ものみんたさんの顔に変わっているし、近いし怖いよ。
ちらりと紗季未の方を見ると、顔を真っ赤にして、更に僕の方を睨むように見ている。
うーん。これは……




