71 女王蜂様 手足をバタバタさせる
紗季未は発光したけど、母さんも蜂野先生も拍子抜けするほどスルー。
「さあてっ、夕飯作り始めないとね。コンブチャ・オヒムが蜂幡フットボールクラブの監督やってるから、サポーターからたっくさん差し入れもらってね。少しおすそ分けをもらったのよ。ちょっと張り切って作ってみるわ」
ふーん。そうなんだ。
「紗季未ちゃん。行くよー」
母さんは茫然としている紗季未を尻目に台所に向かう。
「はっ、はい」
紗季未は発光したまま後を追うけど、母さんは全く気にしていないみたいだ。
「めきみちゃんとこうちゃんは、居間で待っててね」
◇◇◇
「ふっふ~ん。二人きりねん。新川く~ん❤」
うっ、うわっ、早速ちょっかい出して来たぞ。
「い、いや。恒未もいるし……」
「恒未ちゃんはおねむよね~❤」
すると、恒未はおもむろに座布団の上に横になり、自分でバスタオルを上に掛けて、入眠。察しが良過ぎだろう。おまえ。
「そういう訳でん。いざっ! 二人目っ! レッツメイクラブ❤」
二人目って、一人目はメイクラブしてないでしょう。
と突っ込む間もなくすり寄ってくる蜂野先生。
くっ、いい匂いがしやがるぜ。僕も至って健康な十五歳の男子。嫌でも反応してしまう。くっそー。
わっ、先生の右手が僕の顎をとった。先生の顔が近づいてくる。
◇◇◇
ガラッ
おもむろに襖が開きました。
見ると両手に皿を持った紗季未が右足を使って、襖を開けた様子。
「『おかず』持ってきました…… ところで、二人は何をしてたのですか?」
紗季未が体が小刻みに震えています。怒ってる。怒ってるんですね。
「ちっ、もうちょっとでR18になったのに」
先生、ギャグでもそういうことを言わないでくださいよー。本気で苦情が来ますって。
ヤヴァいっ! 話題を変えようっ!
「わあっ、今日のおかずはなーにかなっ? お腹ペコペコなんだー」
◇◇◇
見ると、大きな皿に盛られたたくさんのマグロの刺身。それが二皿も。
「え? これ一皿でも四人なら十分なんじゃあ?」
「お母さんがね、これ一皿で一人分なんだって……」
随分と豪勢な。いいのかなあ。差し入れのおすそ分けでこんなにもらっちゃって……
「…… 少ない……」
◇◇◇
「え? 先生? 蜂野先生? 今、何とおっしゃいましたか?」
「少ない。少ない。こんなんじゃ足りないよおー」
手足をバタバタさせる蜂野先生。えっ、えーと。
紗季未は大きく溜息を吐くと、淡々と言った。
「お母さんもそんなことは重々ご承知です。蜂野先生には『スペシャルメニュー』が用意されています」
そして、紗季未は三つ目のマグロの刺身の皿をちゃぶ台に置くと、いったん廊下に戻り、その「スペシャルメニュー」を持って来た。
それは巨大な「マグロのかぶと焼き」だった……




