70 女王蜂様 いつまで続く独演会
「更にっ! 恒太朗は人差し指をこーうやって、ほんでもって、親指をこーやって、あ、ほれ。いんぐりもんぐりいんぐりもんぐり、エー気持ちっと」
放っとくと蜂野先生の独演会はいつまでも続きそうだ。何とか止めないと(汗)。
◇◇◇
「ああ、もう僕、お腹が空いちゃって、空いちゃって、成長期だしい。」
そんな僕を母さんは厳しい目で見つめ……
「こうちゃん。いい子にして、晩ごはん待ってなさい。そうでないと、お母さん、ごはん作らないよ。今、いいとこなんだからっ!」
何それ? 僕は五歳児? 勘弁してよ~
◇◇◇
「あ、お母さん。私、先に台所行って準備してますね」
救世主のような紗季未の言葉。まあ、この場にいたたまれなかったんだろうけど……
「あっ、そう。いくら紗季未ちゃんとはいえ、お客様に一人で作らせておくわけにはいかないわね。まあ、いいわ。めきみちゃん。続きは夜にね。今晩は人数が少ないから、そんなに量いらないんだけど……」
「え? 人数が少ないって?」
「蛍川かかしも、コンブチャ・オヒムも、レールむすめも今晩は外で食べるって」
「あらま、何で?」
「レールむすめは夜勤」
まあ、鉄道会社だから夜勤もあるだろうけど、レールむすめの姿で夜勤ねえ。まあ、今の蜂幡市はある意味、どこより安全かもしれないけど……
「蛍川かかしは『ジ・エンカーズ』のファーストコンサートが満員御礼だったから、派手に打ち上げやるって」
「うわ、連日の宴会! 元気だなあ。どこでやってるの?」
「『拉麺美食倶楽部』だって。『醤油ラーメン』と『牛乳ラーメン』食べながら、『蜂幡酒造』で元ゲームのカードだったキャラたちが作った『銘酒ドラゴンロケット』『ゴリラの猿酒』『信楽狸のぶら下げてる酒』飲み放題コース。おまけに従業員はみんなメイドさんになってるそうだわ」
改めて考えると、凄いことになってるよね蜂幡市。
「コンブチャ・オヒムはねえ。今日はもうちょっと仕事頑張るって」
「へ? 何の仕事?」
「スペインのサッカーの名門クラブにいる紗季未ちゃんの弟の拓也君の獲得オファーを出したんだけどね。契約が4年も残ってる上に、将来有望なジュニアアスリートだから、相手方も手放したがらないみたい」
途端に紗季未の表情が真剣になる。
「チームの社長の吉田君とGMの小林君と相談してね。今の蜂幡フットボールクラブには他にも有望な子がたくさんいるじゃない。その中でスペインに武者修行に行きたい子がいたら、交換できないかって、検討してるのね」
紗季未の全身が白く発光し、ドクンという大きな心臓の音をたてた。
僕がこれを見たのはこれで2回目だ。




