68 女王蜂様 とどめの一撃
しばらく衝撃を受けたままだった竜介君たちだけど、ぺこりと蜂野先生に頭を下げ、
「お世話になりました。では僕たち、これで帰らせていただきます」
と言った。
それに対して、蜂野先生。
「な~に遠慮してんのよん。夕飯きっちり食べて行きなさい。自分の家だと思って、くつろいで、叩き壊して、車を突入させていいのよん」
だから、ここは先生の家じゃないでしょ。車突入させるって、どこのヤクザですか?
「お言葉はありがたいのですが……」
さすがは知的な青年竜介君。如才ない。そう言えば、医者の息子だっけ。
「節藁野が夜に豆腐配達の仕事があるので……」
うわお。キッチリ仕事してんのね。蜂野先生の魔法で免許取れたから、無問題になったけど……
◇◇◇
「たっだいまっ! 女王蜂様のお帰りよん」
堂々と僕の家の引き戸を開ける蜂野先生。もう、それは驚かないからいいんですけどね。
「おかえり~。愛してるわよ~」
母さん、両手を広げて、玄関に猛ダッシュ。しかも、その恰好ときたら……
レオタードの上からエプロン!
何なの? 何なの? 誰の趣味なの?
そして、母さん、蜂野先生をがっちりとハグッ!
「めきみちゃ~ん。愛しているわあ~」
「ふっふっふっ、あたしもよん。マイラバーさっちゃん」
黙って見ていると、いつまでも続く抱擁。だけど……
蜂野先生の魔法で18歳に若返っちゃった母さんのレオタードエプロン姿は、15歳の男子高校生の僕には目の毒もいいとこです。
思わず目をそらします。
「あら?」
こういうことには目ざとい母さん。
「めきみちゃん。今、こうちゃんが目をそらしたわ。どうしたのかしら? どうしたのかしら?」
「ふーん」
蜂野先生。悪い笑顔。また何か企んでますね。
「きっと、エプロンの下にレオタード着ているのが気に入らないのよん」
「ああ、そうかあ」
納得顔の母さん。
「こうちゃん。裸エプロンの方が好きなのね~」
「そうなのよん。こう見えて新川君。蜂幡一のむっつりえっちだからねー。この二日間でよーく分かったのよん」
蜂野先生。満面の悪い笑み。もう勘弁して。
「ごめんねえ。こうちゃん。じゃ、あたし、ちょっとレオタード脱いでくるからあ」
駆け出す母さん。
「わっ! わっ! わっ! ちょっ、ちょっと、待って!」
「え? 何? こうちゃん」
立ち止まる母さん。
そこへ蜂野先生のとどめの一撃。
「さっちゃ~ん。新川君。この場で脱いでほしいんだって~」
誰もそんなこと言ってないでしょっ!
ここで何故か母さん。どこから取り出したか分からないハンカチを目に当て、涙ぐむ。
「まあ、こうちゃん。立派なえっちになって。これはもうすぐにでも孫の顔見られそうだわ」
ぎゃあー。どうして母さんが出てくるとこうなの?




