66 女王蜂様 偵察衛星を乗っ取る
「では、車を選びましょう。あたしはこれがいいな。色、きれいだし」
と言って、蜂野先生が指差したのはイエローのRX-7、アンフィニFD3S。大人気ねえーっ。色、きれいとか言って、一番、高性能な車取った。
「ふふふ」
なんと、紗季未が不敵な笑い。
「先生。残念ですね。私これでもこうちゃんのレーシングゲームやりこんでいるんですよ。そんな、私が選ぶのはっ!」
紗季未がビシリと指差したのは、スプリンタートレノ、AE86。通称ハチロク! サイドに「節藁野と~ふ屋さん」の印字あり!
「ふっ、まるっきり何も知らない訳でもなさそうね。いい勝負になりそうだわ」
蜂野先生。笑みを崩さすに返す。僕もちょっとワクワクしちゃって、いかんいかんと思い直す。相手は蜂野先生だぞ。どんなオチが待ってるか分かったもんじゃない。
◇◇◇
「よおしっ! じゃあ、お母さん、一勝負してくるからねえ。お父さんとこ行っといで」
蜂野先生の言葉に恒未は頷くと、小さな羽を懸命に羽ばたかせて、僕の所に飛んできて、左肩にちょこんと座る。
うーん。やっぱ可愛い。それに、蜂野先生の言葉をちゃんと理解したのは賢い子なんじゃと思ったのは親の欲目?
「じゃあ、新川君。スターターやって。北原さんをえこひいきしちゃ駄目だよ」
いえ、先生。僕としては紗季未に勝ってほしいけど、スターターでえこひいきするようなことは出来ませんよ。
カウントを始める。
「5」
「4」
「3」
「2」
「1」
「ゼロ」
ゴオオオオ
おう、両者いいスタート。一人は免許は持っていたけどペーパードライバー。もう一人に至っては10分前まで無免許だったとは思えない。さすが蜂野先生の魔法はチート(誰か突っ込んで下さい)。
しかし、やはり高性能なのは、蜂野先生のFD3Sの方だ。しっかりと前に出た。だが、紗季未のハチロクもキッチリと食らいついている。うーむ。
「助手さん。僕のFCで追いかけましょう」
◇◇◇
僕にそう声をかけてくれたのは知的な青年。僕は蜂野先生の助手ってことになってるのね。訂正するの面倒だし、まあいいか。
僕は促されて、もう1台のRX-7。サバンナFC3Sに乗り込む。リアシートかなり狭いのに、何とすごく小さいながらチャイルドシートがある! なんつー準備の良さ。恒未を座らせると、やっぱりキャッキャッキャッキャッ大喜び。良かったね。何でも楽しくて。
リアシートには僕と恒未、ぽけっとした少年の3人が座る。かなり狭いけど仕方ないね。
運転席は知的な青年。助手席はやんちゃな感じの青年。
「助手さん。僕は片葉兄弟の兄の竜介。助手席は弟の平介。後ろは近所の節藁野と~ふ屋さんの息子の節藁野塊です」
運転席の竜介さんの紹介に平介さんは「よろしく」と言って頭を下げ、塊君は黙って頭を下げる。
そうね。片葉兄弟と節藁野と~ふ屋さんの息子さんと言えば、近所で有名な車好き……って、ん? ん?
「君たち片葉君は中学生で、節藁野君は小学生じゃなかったっけ?」
この問いに平介君満面の笑み。
「そうですよー。18歳待たずに公道で車運転出来て。みんな、女王蜂様のおかげです」
はあ~。なるほど。夢を叶えてはいるのね。
「さあて、そろそろ発車しますが、その前に……」
ウィーーーン
竜介君がボタンを押すとルーフからスクリーンが下りて来た。わあ。
「これでFD3Sとハチロクの勝負の状況が見られます。女王蜂様がアメリカの偵察衛星を乗っ取って、撮影しています。そろそろ中盤に入るくらいです」
アメリカの偵察衛星を乗っ取るとか、ドローンを飛ばしてと同じレベルで言ってるし……やれやれ。
スクリーンを見ると、FD3Sが先行し、ハチロクが食らいつく展開は変わっていないみたいだ。




