65 女王蜂様 と武士には二言はない?
ギャアアア
ゴア ゴアアアア
来たっ! 来ましたっ!
マツダRX-7がホワイトとイエローの2台が並んで、続く1台はホワイトとブラックのハイテックツートンのトヨタスプリンタートレノ。うっ、うーむ。
ギャアアアア
おおっ、先を走っていた2台のRX-7が並んでドリフトを始めたっ!
茫然として見つめる紗季未。
何を見てもキャッキャッ喜ぶ恒未。
蜂野先生は例によって胸を張ってドヤ顔。
ドアアアア ボボボボ
2台のRX-7が学校の北側の正門前につける。その後ろにスプリンタートレノが停まる。
今更ながら、先生と僕と紗季未の3人しかいないのに、3台も呼ぶのはどういう訳? 恒未をチャイルドシートに乗せるにしても2台あればいいはず。
バタン
ドアが開き、2台のRX-7からすらっとしたいかにも知的な青年とちょっとやんちゃっぽい青年。スプリンタートレノからちょっとぽけっとした感じの少年が降りて来た。
RX-7から降りた2人は蜂野先生に駆け寄る。やんちゃっぽい青年はぽけっとした感じの少年に早くくるように促す。
◇◇◇
「女王蜂様。僕たちの夢を叶えてもらってありがとうございます」
RX-7の2人は蜂野先生に頭を下げる。ぽけっとした感じの少年はただ立っていたけど、やんちゃっぽい青年は右手で少年の頭を下げさせる。
「うむ。大儀である」
蜂野先生、ふんぞり返る。一般庶民相手に威張る女王様だなあ。
でも、先生。3台も呼んでどうするんですか?
「ふっ、ふん。よくぞ聞いてくれたわね。新川君」
蜂野先生は紗季未の方に振り返ると
「北原さん。あたしと車で勝負しない?」
◇◇◇
「え? 私とですか? 私、運転免許持ってませんよ」
紗季未、久しぶりに冷静なリアクション。
「あ、そう? あ、せーのっ! どんっ!」
蜂野先生、蜂の針を一振り。
「はい」
蜂野先生、紗季未に運転免許証を渡すし。
だんだん、ツッコミも空しくなってきたけど…… いいのか? それでいいのか?
◇◇◇
「だけど、先生だって、運転免許取ったばっかりでしょう。車の勝負とか大丈夫なんですか?」
「何よお。しっつれいね。『峠の女王蜂様』に向かって」
いつからそんなそんな二つ名がついたんですか?
「私も車の運転はゲームでしかやったことないですよ」
今回の紗季未は冷静っぽい。
「大丈夫ですよ」
そう声をかけてくれたのは、知的な青年。
「車に魔法がかかっているので、技能に合わせて安全に運転できるようになっているんですよ」
ふーん。ならいいかな。でも、紗季未は浮かない顔。
「だけど、蜂野先生と勝負して勝っても、私、何もいいことないし」
「ほおおお」
一言唸った蜂野先生。
「ではこうしましょう。北原さんが勝負に勝ったら、あたしは今後一切新川君にちょっかい出すのは控えましょう」
「!」
わっ! 今回、冷静だった紗季未の目が光った。
「先生。その言葉に二言はないですね」
「ふふん」
蜂野先生、更にドヤ顔。
「武士と女王蜂様に二言はないわよん」
「その勝負。お受けしましょう」
ま、待てっ! 紗季未っ! そういう口約束を守る相手じゃないぞっ! 冷静になれっ!
しかし、最早、紗季未の目には炎が灯っていた。
こうなると僕には止められません。ごめんなさい。




