64 女王蜂様 ツッコミをスルーされる
ドアの向こう側は……
「や~ん。恒太朗のむっつりえっちぃ~」
どうしてみんな僕には「むっつり」をつけるの? じゃなくてえっ!
湯気の中にいたのは蜂幡ハニーちゃん!
つまり中の人は、実の兄京太朗兄ちゃんだ。はあ~。
「覗いちゃ駄目だよって言ったのに、やっぱり覗きに来たね。恒太朗のむっつりえっちぃ~」
◇◇◇
バンッ
紗季未が凄まじい勢いで「どこへでも行けるドアー」を閉めました。
バタンッ
あまり勢いが凄まじかったので「どこへでも行けるドアー」が倒れました。
思わず僕は言いました。
「わぁ~んっ! ダラえも~んっ! 何とかしてよ~!」
校長室の押し入れが内側から開いて、
「も~っ、しょうがないなあ、こう太くんは~」
その間も恒未は、キャッキャッキャッキャッと大喜び。
良かったね。君にとって楽しい世界に生まれてこられて。
◇◇◇
「ダラえも~んっ! 『どこへでも行けるドアー』の調子がおかしいんだよ~」
「んん~。どこが変なの~?」
僕は家に帰りたいのに、雪嵐が吹くところに行ったり、砂漠に行ったり、お風呂場に行ったり……
「何もおかしくないじゃな~い」
「へ?」
「ほら~、ここ、見てえ」
ダラえもんは倒れたままの「どこへでも行けるドアー」の右上隅を指差す。
「えーと。商品名『どこへでも行けるドアー アトランダム』。アトランダム?」
「どこへでも行けるよ~。アトランダムに~」
駄目じゃん。それじゃ。僕は家に帰りたいんだよー。
「まあ、一億回くらい開け閉めすれば、行けるんじゃな~い」
駄目じゃん。それじゃ。すぐ、帰れるものはないの?
「も~っ、しょうがないなあ、こう太くんは~」
◇◇◇
「飛んでくタケトンボー」
パンパカパンパン パンパカパンパン パカパカパカ
おおっ、今度はそっちで来たか~。さっきのことがあるから、すぐに信用できないけど、空を飛べるのは魅力的だね。
「ほら。こう太くん」
ありがとう。これを頭につけるんだよね。あ……
バババババ
「飛んでくタケトンボー」は凄まじい勢いでプロペラを回転させて、
ドドドドド
僕の手を離れて飛び去って行き、
ドガアン
校長室の壁を突き破ると飛び去って行った。
◇◇◇
「ダラえも~んっ! 飛んで行っちゃったよ~」
「自分だけ『飛んでくタケトンボー』だからね~。もう家に着いてるじゃないの~」
駄目じゃん。それじゃ。
「も~っ、しょうがないなあ、こう太くんは~。こう太のくせに生意気だ。こう太のものはおれのもの。おやすみ~」
「ちょっと。ダラちゃん、それ、あたしのセリフ」
メキミアンのツッコミもスルーされ、ダラえもんは押し入れの中に。
◇◇◇
こうなるとは思ってましたが、蜂野先生、どうします? 歩いて帰りますか?
「やあねえ。新川君。女王様たるもの、常に二の手三の手は考えてるのよん。車、呼んでるから、北側の正門に行きましょ」
その言葉を信じて、いや、もう信じてないけど、何度痛い目を見たことか。
◇◇◇
北側に行くと、え? 北側の道って、こんな曲がりくねった坂道だったっけ?
そこに向こうから、「ギャワアアア」「ドン」「ゴオオオオ」という音が。
こっ、この効果音は……




