63 女王蜂様 蜂の針で脳天を一撃
「さあてっ! 時々、自分でも忘れそうになるけど、テーマは『働き方改革』よん。とっとと帰るわよん」
「先生。僕も忘れてました。テーマは「働き方改革」でしたね。ところで、先生の家ってどこにあるんですか?」
「よくぞ聞いてくれましたーっ! ♪オウッ、新川君っ、あた~しの、おうちはココッ!」
先生が僕に渡したのは、何と「運転免許証」! ほんっと何でもありですね。
えーと、なになに、住所はと…… 志村県蜂幡市東蜂幡一丁目一丁目和阿尾123の456と ん?
「僕の家じゃないですかっ! この地番は!」
「やあねえ。ヒロインがさえない主人公の家に同棲するっ! これぞ日本のラブコメの王道じゃなーい」
◇◇◇
「先生っ! 『同棲』って何ですかっ? 『同棲』って!」
僕が妊娠したからというものの、先生へのツッコミは紗季未の方がきつくて、素早くなったような……
蜂野先生、慌ててビビりながら、フォロー。
「やっ、やあねえ。あたしの愛人はお母さんよお。このヘタレDTじゃないから、安心してーっ」
その間、恒未は先生の左肩の上に座ったまま、キャッキャッキャッキャッと大喜び。
「娘」がいるヘタレDTって、僕って本当何なの?
◇◇◇
「まあとにかく帰りましょう」
「はあ、今度はどうやって帰るんですか? 普通に歩いて?」
「ふっ、ふぅーん。あたしを舐めちゃいけないよん。はい。新川君、これを読んで」
何やら小さいメモ書きを渡された僕。それを見ると……
「えーとなになに、『わあん、ダラえもん。メキミアンにいじめられたよー』って何ですか? これ?」
シーンと静まり返る校長室。
◇◇◇
「やっぱ、感情のこもってない棒読みじゃ駄目ねん。ではっ!」
ガコッ
蜂野先生、持っていた蜂の針で僕の脳天を一撃。いったあ~。なっ、何するんですかあ~
「はいっ! その気持ちをこめて、さっきのセリフ、ワンモアプリーズっ!」
「わぁ~んっ! ダラえも~んっ! メキミアンにいじめられたよ~っ!」
ガラッ
おもむろに校長室の押し入れが内側から開くっ!
「も~っ、しょうがないなあ、こう太くんは~」
◇◇◇
えーと、猫のような狸のようなロボットが、御本家から比べると、ダラダラ動いているような。
「それで~、どうしたいのお~」
「とっとと家に帰りたいの」
ダラえもんの質問に答えるのは、何故かメキミアン。
「ふ~ん。ええっとお」
ダラえもんがお腹のポケットから取り出しのはっ!
「どこへでも行けるドアー」
パンパカパンパン パンパカパンパン パカパカパカ
おおーっ、これは凄いぞっ! 今までの中で一番まともかも……
◇◇◇
「ほんじゃ、こう太くん、勝手に使って、僕、ダラダラ寝てたいから……」
よーし、僕が張り切って、ドアを開けると……
ゴオゴオオーッ
一瞬、何が起こったか分からず、呆然としている僕。
「こうちゃんっ! 早くドア閉めてっ! 雪嵐が吹き込んで来ているよっ!」
紗季未の声に慌てて、ドアを閉める僕。
どうなってるの? いったん閉めて、僕はもう一度ドアを開ける。
もああああ~
今度はすさまじい熱気。どうやら向こう側は砂漠だ。やはり、慌てて閉める。
◇◇◇
僕の家に帰ると言う気持ちが入っていなかったのが良くなかったのかな。よし、気持ちをこめて。僕の家。僕の家と。
3回目のドアオープンとともに吹き込んできたのは、今度は湯気。
そして、「キャーッ」の声。
え? 向こう側は「お風呂場」?




