59 女王蜂様 栄養食品を提供する
かくて、「料理勝負 ラーメン編」は、うやむやのうちに幕を閉じた。
「拉麺美食倶楽部」もすっかり「メイドラーメン屋」になったけど、蜂野先生はご満悦。
ギョーザの無料券が店が変わっても有効と隆山先生のお墨付きをもらったからですよね。
どこまでギョーザ好きなんですか?
世に「庶民的」を売りにする女王様はたくさんいますが、蜂野先生のは度を越してますよね。
◇◇◇
「さあ、じゃあ、学校行かないとねっ! まあ、ラーメン屋の道路はさんだ反対側だけどねっ!」
勇躍、学校に乗り込まんとした蜂野先生を出迎えたのはっ!
キーンコーンカーンコーン カーンコーンキーンコーン
下校時間を告げるチャイム。そりゃそうですよね。午後5時だもの。
まあ、あれだけ寄り道してくればねえ。
◇◇◇
いえ、もうですね。何があっても驚かなくなってきていると自分でも思うんです。
でもね。驚きましたよ。
だって、学校の校庭が……
「牧場」になっているし!
あちこちでブモオォーッって、ウシさんの鳴き声が、コッコッコッとニワトリさん、ヴッメエェエエエはヒツジさんですね。
時折、ワンッワンッと牧羊犬らしき声も……
その中を蜂野先生、全力疾走で蜂の針振り回して、叫びまくり。
「ほらあああ、みんなっ! もう、5時だよっ! 帰ったっ! 帰ったっ!」
かくて、ウシさんもニワトリさんもヒツジさんも牧羊犬さんも我も我もと、鳴きながら小屋に帰って行く。
うん。こういうところは「スゴイッ!」と素直に思います。
あれ、牧場の中に人影が……
みんな、女の子っぽい。変身したのかな?
話聞きたい気もするけど、蜂野先生が全力で帰して回ってるし、後にしよう。
◇◇◇
「先生。僕たちも帰った方がいいですか?」
僕の質問に、蜂野先生は即答。
「あ、あなたたちはね。せっかく来たんだから、おやつ食べていこう」
おやつ? 5時過ぎに? ああ、また、何か嫌な予感がして来たぞ。
◇◇◇
僕たちは学校の校長室に案内された。
校長先生は「のぼり坂くだり坂ま坂46」の 「『なゆたん』こと城東菜由」に変身しちゃったから、実質、ここは空き部屋。
蜂野先生は、それをいいことに校長室を占拠。まあ、それはいいんだけど……
◇◇◇
蜂野先生は校長室備え付けのガラスのカップに入った生クリームっぽいものとスプーンを紗季未に渡すと、自分も同じものを食べようとした。
イラストレーション 秋の桜子様
「ちょっ、ちょっと待って下さいっ!」
「何よお。新川君の分はないわよ。意地汚いわね」
「いえ。そうじゃなくて。僕の分がないのはいいですよ。子どもじゃないんだし。それより何ですか。この生クリームっぽいやつ? 発酵したような酸っぱい匂いもするんですが、普通の生クリームじゃないですよね?」
「ただの栄養食品よお」
栄養食品? 大丈夫なのかそれ? いや、今までのことから考えて、蜂野先生は冗談で生きているような女王蜂様だが、紗季未に毒物を食べさせるようなことはしない筈だ。だけど……
心配なのは、異世界から来た蜂野先生には「栄養食品」だが、こちらの人間である紗季未には「毒」になる場合だ。こっちの方は蜂野先生の場合…… やりかねない……
えいやっ! 僕は紗季未からスプーンを奪い取ると、カップの中の生クリームっぽいものを口に入れた。ほのかな甘みとやや強い酸味が口の中に広がる。
そして、思い切って飲み込んだ。
◇◇◇
「こっ、こうちゃん。大丈夫っ?」
紗季未が僕にしがみつく。
「…… …… …… 何ともない」
紗季未は僕にしがみついたままだ。
「何よお。新川君っ! しっつれいねっ! 北原さんは大器よ。体に害があるようなもの食べさせる訳ないでしょっ! そんなもったいないことしないわよ」
「そ、そうですか。良かった」
「まあ、副作用は、男が食べると妊娠するくらいかしらね」




