57 女王蜂様 美脚を披露
決戦の舞台は整った。
投票する観客は150人。M1エイブラムス戦車の乗員5人もその中に入っている。
最近の街頭インタビューの投票なんかだと、一枚の紙に色の付いたシールを貼らせる方式とか、自分の前の人がどちらに投票したか分かるようなものも多い。
だけど、千里万里さんは本格的なドキュメンタリーにしたいからと、厳正な方式を取った。
僕はまだ15歳だから、行ったことはないけれど、本当の選挙と同じに誰がどちらに投票したか分からない、他人の投票に影響されない。そういった方式。
ムードに流されて、そのことでワンサイドゲームにならないよう気を遣ったそうだ。
だけど……
◇◇◇
「なんかさあ、麺は美味しいのよ。でもね……」
「そうそう、麺はコシがあって、美味しいの。でも……」
「うーん。これは……」
そういう声が聞こえてくる。
投票が進むにつれ、千里万里さん、だんだん渋い顔に。
まあ、僕はこの結果、予測がつかなくもなかったんですが……
では、投票結果を見て見ましょう……
◇◇◇
電光掲示板に大きく「130-20」の表示。
どちらが「130」かって、「正統派醤油ラーメン」です。はい。
まあ、僕は内心紗季未たちを応援してたから、いいっちゃあ、いいんだけど……
◇◇◇
僕は打ちひしがれている千里万里さんに声をかけた。
「投票した人に投票理由をインタビューして来ましょうか?」
千里万里さんは静かに返した。
「いや、それには及ばないよ。恒太朗君『牛乳ラーメン』食べてみな」
僕は千里万里さんから「牛乳ラーメン」のドンブリを受け取ると一口食べてみた。
「!」
◇◇◇
「何ですか? これ? ホットミルクの中に生麺入れただけのような……」
「その通りだ。旨い訳がない」
「『牛乳ラーメン』って、こういうもんなんですか?」
「そんな訳がない。有名インスタントラーメンメーカーがレシピを開示しているし、名店のメニューにも載っている」
「じゃ何で? あ……」
「そうだよ」
僕は思い出していた。蜂野先生が寸胴に牛乳「だけを」ドバドバ入れていたのを……
千里万里さんは大きく溜息を吐いた。
「『牛乳ラーメン』はベースの『味噌ラーメン』とかに牛乳を加えて、味に奥行きを出すんだよ。あー、『本格ドキュメンタリー』作るつもりが『バラエティー』になっちまった」
え? そうだったんですか? 千里万里さん。厳正な選挙方式はともかく、僕はこれはどう見ても初めから『バラエティー』だと思っていましたが……
その時、後方から高笑いの声が。
「わあっはっはっは~」
◇◇◇
振り向けば、蜂野先生がメイド服のまま、高笑いしながら、紗季未・疲労子さん組の方へ歩いて行く。
右手で高々と掲げられたお盆の上には「牛乳ラーメン」のドンブリが……
蜂野先生はドンブリを掲げたまま、紗季未・疲労子さん組に向かって一言。
「おのれ、馬脚を現しおったな。何だこのラーメンはっ?」
あまりのことに絶句している疲労子さんに代わって、僕がツッコミを入れる。
「馬脚を現したって、そのラーメン作ったの、蜂野先生でしょう?」
蜂野先生、僕の方を振り向くと、
「さすがね。新川君。でも、一つ間違っているわ」
「へ? 間違っているって何が?」
「あたしが現したのは『馬脚』じゃなくて『美脚』よん」
メイド服のまま、思い切り伸ばした右の生足に、「オオーッ」の大歓声。
ほら、やっぱり「バラエティー」じゃないかあ……




