52 女王蜂様 五連発で魔法をかける
僕は千里万里さんに泣きついた。
「千里万里さ~ん。一介の高校生の僕に『料理勝負 ラーメン編』の運営進行は無理ですよー。進めてください。お願いしますー」
「おうよっ! 俺に任しときなっ! 恒太朗君っ!」
千里万里さん、ノリがラーメン屋の時のままです。
「で? 仕込みはどうなってんの?」
千里万里さんの問いに、隆山先生、胸を張って答える。
「ああ、それなら昨夜徹夜で『巨乳ポーズ』考えてたから、全然、やってないわ。わあっはっは」
「ふむ」
千里万里さん、その回答にも全く動ぜず。これが長年の夫婦のつながりなのか?
「で、疲労子。おまえの方の仕込みは?」
疲労子さんは疲労子さんで、千里万里さんの問いに、
「その隆山という女は品性下劣。あんな女がやっていないことは、こっちもやっていない」
何か大見得切ってるけど、早い話が仕込みを全然やってないってことですね。
「弱ったなあ。千里万里さん、どうします」
僕の問いに千里万里さんは少しも慌てず、
「なあに、ここはラーメン屋だ。恒太朗君、寸胴出すの手伝ってくれ」
◇◇◇
千里万里さんも胸を張った。
「どうだ。恒太朗君、最新鋭の圧力アルミ寸胴だぞ。最大の100リットルサイズだから、150人分は一気に作れる。しかも、ちゃんと2基あるからな」
「おおっ! さすがですねえ。で、これですぐにラーメンが出来て、料理勝負が出来ますね」
「おうっ! 何しろ最新鋭だからな。2時間半でスープができるぞっ!」
「はい?」
「しかもな、スープ炊いてる間は寸胴任せにできるから、その間、他の作業が出来るぞ」
「いや、そうじゃなくて、これから2時間半もかかるんですか? もう、午後2時ですよ。もっと早くなんないんですか?」
「馬鹿言うな。インスタントラーメンじゃないんだぞ。2時間半って一番早い口だぞ」
「うーん。観衆の人たち、これから2時間半も待ってくれるのかな? これって暴動もんじゃあ?」
「せっこいわね~。新川君。そこは『ちゃんとしたラーメンを食べるのに時間がかかるのは承知してるよ』というエピソードでしょう」
いきなり現れる蜂野先生。それは〇味しんぼの鰻のエピソードじゃないですか。
「まあ、待ってる方が退屈するってのは分かんなくもないから、まあしゃあない。いっちょやったりますか」
蜂野先生、蜂の針を一振り。先生にスポットライトが当たる。
「みんな、聞いてえー」
ん? 観衆の注目が蜂野先生に集まる。こうやってれば普通の22歳のアイドルなんだけどね。
「ごめーん。ラーメン作るのにー、2時間半以上かかっちゃうのー」
ええーっとの声。この辺もアイドルコンサートみたい。
「でもねー、待っててもらう間、みんなには退屈させないからね。あっせ~のっ、どんっ! どんっ! どんっ! どんっ! どんっ!」
蜂野先生が蜂の針を振るたびに、中空に巨大ディスプレイが現れる。
それらはそれぞれ「蜂幡三年坂46」のライブコンサート、「蜂幡プロレス」、「蜂幡フットボールクラブ」、「蜂幡クインビーズ」の試合中継を映し出した。
オオーッという歓声が上がる。
ふぅ、これで何とか時間が稼げそうだと思って、蜂野先生の方を見ると……わあっ!
蜂野先生、どこからともなく布団を取り出し、敷き始めているじゃないか。意味不明!?
「先生っ! 何やってるんですかっ? 布団なんか敷き出して」
「ああ、新川君。五連発で魔法かけたら疲れたから寝るわ」
「いや、今さっきみんなの前でこれからラーメン作るって言ったじゃないですかあ」
「そんなこと言ったっけ? 昨日のことは忘れたよ。明日のことは分からない」
いや、昨日のことじゃなくて、今さっきのことなんですが……




