50 女王蜂様 世界の七不思議を語る
しかしこれ以上は、変身していない一介の男子高校生である僕が「料理対決 ラーメン編」を進行させるのは無理でしょう。
いくら今まで蜂野先生のゴリ押しでいい加減な話が全部通ってきたと言っても、それは無理。
テレビ局のクルーに進行をお願いするとしよう……って、あれっ?
「ふっふっふっ、恒太朗君。やっと気付いたのかね?」
「せっ、千里万里さんっ? 何でテレビ局のクルーやってんですかっ? それに腰は?」
「おうよっ! 腰痛なんだけどなあ、昨日、蜂幡市全体に魔法がかかったら、コロッと治っちまったのよ。ガッハッハッ」
乳腹千里万里さん。乳腹隆山先生の旦那さんにして、邪魔丘疲労子さんのお父さんである。そして……
「えーっ? だって、もともと、『乳乳亭』は千里万里さんが腰痛でラーメン作れなくなったから、隆山先生が店主やってたんでしょう? 腰痛が治ったら、また、ラーメン作らないんですか?」
そんな僕の質問に、千里万里さんはこれ以上ない程の真剣な表情で僕の眼を真っ直ぐに見て言ったのだ。
「恒太朗君ッ! 俺はなッ!」
「はい」
僕も思わず両手が握りこぶしになり、聞き入る。
「『テレビ』が大好きなんだっ!」
…………
…………
…………
「はい?」
ここで僕にどんなリアクションを取れと?
◇◇◇
ここで突如辺り一面真っ暗に……
「おおう」「なんだ? なんだ?」
観客に広がる困惑の声……
ここで流れ出すBGM……
カミーユ・サン=サーンス作曲「動物の謝肉祭」の中から「白鳥」
♪ちゃ~ら~ ら~ら~ ら~ら~ら~ らら~
真っ暗な中、千里万里さんにスポットライトが当たる。
「おおーっ」
観客から歓声が上がる。
ここでおもむろに始まるナレーション……
「ラーメン屋……」
「それは……蜂幡市民にとっての……食の……そして、心のオアシス……」
「そのスープの脂は七色に……そう、虹色に光る……そこは夢のワンダーランド……」
何となく聞き入っていたけど、このナレーター、蜂野先生じゃないかっ! また、何か魔法をかけたな…… うーん、嫌な予感がする……
◇◇◇
「ラーメン屋……」
「それはそのスープの染みで茶色くなった少年〇ンデーがあるところ……なぜか、少年〇ャンプではなく、少年〇ンデー。それは世界の七不思議のひとつ……」
やめてください。本気で苦情が来ます。
「ラーメン屋……」
「それは棚の中に〇味しんぼ全巻が並べてあるところ……描かれている内容がまるで出される料理に反映されていないのに、なぜか全巻が並べてあるところ……それも世界の七不思議のひとつ……」
やめてっ! もうやめてっ!




