49 女王蜂様 聞かれてもいないのに答える
「疲労子さんっ!」
あわてて駆け寄る紗季未。
「むう。おのれっ! 隆山……」
貧血を起こしたのか、フラフラと立つ疲労子さんを支える紗季未。
そんな紗季未はキッとした表情で僕を睨んだ。
「こうちゃん。こうちゃんは蜂野先生の助手でしょう。何とかしなさい。この状況……」
いつもはおっとりしていて穏やかな紗季未さんからはどす黒いオーラが大量に立ち昇っている。
とてもじゃないけど、僕は蜂野先生の助手じゃないよと言える雰囲気ではない。何とかせにゃ。
「あらあ、北原さん。怒っちゃった? やっぱ、普段、穏やかな子を怒らせちゃ駄目よね。新川く~ん」
巨乳を突き出したまま言い放つ蜂野先生。
毎回毎回、その穏やかな紗季未を怒らせてるのは蜂野先生でしょう。全くもう。
途方に暮れる僕の眼に映ったのは、撮影用のテレビカメラのクルーだった。
そうだっ! テレビカメラのクルーなら、みんなに聞こえるマイクを持っているはず。
聞いてみると、やはり持っていた。頼み込んで借りる。
「え~っ、みなさんっ!」
「ん?」
一斉に注目が僕に集まる。
◇◇◇
「『おっぷぁい』談議で盛り上がっているところ、大変恐縮ですが、時刻ももう午後1時を回ろうとしています。みなさんのお腹もいよいよ空いてきたところで、本格的に『料理対決 ラーメン編』に入りたいと思いますが、いかがでしょう?」
ウオオオオオーッ
歓声が上がる。
「待ってましたぁ~っ!」
「腹減ったぁ~っ!」
「『ラーメン編』だか『おっぷぁい』編だか分からなくなるところだったぞーっ!」
ごもっともなお話です。
「では、隆山先生。『料理対決 ラーメン編』開始させていただいてよいでしょうか」
隆山先生、大きく巨乳を突き出し、
「ふっ、獅子はベニヤ板を倒す時も全力をもってするという。疲労子ごとき貧乳っ! 相手にもならぬが、やってやるわっ! わぁっはっはっはっ!」
すると、蜂野先生、こちらが聞いてもいないのに、大きく巨乳を突き出し、
「ふっ、獅子はバルサ板を倒す時も全力をもってするという。北原さんごとき貧乳っ! 相手にもならぬが、やってやるわっ! わぁっはっはっはっ!」
僕はまた見た。
疲労子さんと紗季未のこめかみの血管が同時に切れ、大量の血液が噴出するのを。
そして、僕は地獄の底から聞こえてくるような恐ろしい声を聞いた。
「こうちゃん……」
「はっ、はひっ」
「いつまであの二人に言いたい放題のやりたい放題させとくの? とっとと『料理対決 ラーメン編』始めなさいっ!」
「はっ、はひっ」
僕はマイクを握り直すと、疲労子さんに問うた。
「あの~っ、疲労子さん、『料理対決 ラーメン編』開始させていただいてよいでしょうか?」
疲労子さん、僕の方に向き直るとこうおっしゃられた。
「始めるに決まってるだろうがっ! このヘタレDTッ!」
何で毎回、僕が怒られるの?