46 女王蜂様 文句を言って駄菓子を食べる
再び、戦車はゆっくりと学校に向かって、動き出した。
もう既に遅刻がどうこうというレベルはとっくに過ぎていて、太陽はもう頭の真上。その時……
ブオオオオオオオオーオオオオオー
グオオオオオオオオーオオオオオー
二つの大きな音が鳴り響いた。
説明しようっ!
前者は正午を知らせるサイレンの音。
後者は蜂野先生の空腹を知らせる、いわゆる「お腹の音」だ。
「新川君。うるさいわよ。女王様だって、お腹が空くときは空くのっ! タイム〇カンシリーズのナレーションの真似してる暇があったら、お菓子でも提供しなさいっ!」
お腹が空くときは空くのっ! って、先生、朝ご飯5杯お代わりしたじゃないですか? それもうちのご飯をっ! と言っても始まらないので、懐を探ると「ヘビーブターラーメン」が出て来た。
「先生。『ヘビーブターラーメン』ならありますが?」
「しょうっがっないわね~っ! それでいいわっ! それでっ!」
蜂野先生は「ヘビーブターラーメン」を受け取ると、素早く封を切り、そそくさと食べ始めた。
「おいしいわ~、おいしいわ~、この絶妙のラーメンスープ味がたまらないわ~」
結局、それでいいんじゃないんですかと思っていると、脇から声が……
「ふん。そんなもの有難がって食べて、おめでたいねえ」
◇◇◇
「!」
ふとその方向を見ると、全身黒づくめのスーツでネクタイを緩めている人が一人。何と頭はボサボサのリーゼント。
「あんらあ、誰かと思えば、学校の東門前のラーメン屋の娘さんの疲労子ちゃんじゃな~い。変身したのねん」
それに対する返事は
「ついて来なっ! 本当に旨いラーメンを食わせてやるよっ!」
蜂野先生はもう上機嫌。
「もう、どうしよ。どうしよ。紗季未ちゃん。『本当に旨いラーメン』だって~」
紗季未もニコニコして、
「楽しみですね~。先生」
「ところでさ~、疲労子ちゃん、これ使えるよね~」
と言って、蜂野先生が取り出したのは、さっきカードゲームで使おうとしたラーメン屋のポイントカード。
しかし、疲労子さん、暗い表情で眼光鋭くそれを否定。
「うちはもう『乳乳亭』ではないんで」
「ええっ、つまんなーい。『乳乳亭』じゃなければ、なんなのよぉー」
悔しがる蜂野先生を尻目に、疲労子さんはボソリ。
「拉麺美食倶楽部」
「何それ~、つまんない~。絶対、『乳乳亭』の方が面白いよお。昨日の今日で何が違ったって、言うのさ~」
先生。ポイントカードが使えなくて、悔しいのは分かりますが、貴方がそれ言っちゃ駄目でしょう。昨日と今日の最大の違いは、先生が魔法をかけたこと以外にないです。
「疲労子ちゃん。お母さんに言ってよー。店名戻して、ポイントカード使えるようにしてって」
「ふっ」
疲労子さんも演技かかってきた感じ。
「あんなのは、もう母親ではない。あたしは母親の旧姓を名乗ることにしたんだっ。今のあたしは邪魔丘疲労子」
イラストレーション 秋の桜子様