45 女王蜂様 使用禁止になる
中空にぽわんと蜂野先生を小さくしたような「女王蜂様」が現れた。やはり、右手には蜂の針を持っている。
黙っていれば美人でナイスバディな蜂野先生だけに、ちっこくなるとかなり可愛い。あ、何かしゃべってる。
「アタシノ ハタラキカタカイカクハ ソノモノノ イチバン ヤリタイコトヲ ヤラセルコト」
同じことを言っても蜂野先生より可愛い。
「アッ セーノッ ドンッ」
小さな「女王蜂様」が蜂の針を一振り。
もあああ~んとしたピンク色の煙が、相手方のドラゴンとサーベルタイガーを覆った。
そして、それが完全に晴れた時……
何故かドラゴンとサーベルタイガーは向き合って、座っていた。
「なあ、サーベルタイガー」
「何だ? ドラゴン」
「わしはバトルも嫌いじゃないが、他にもっとしたいことがあるんだ」
「ほう、何だ?」
「ほら、わし、根っからの酒好きだろう。造り酒屋をやりたいんだ」
「そうか。寂しくなるが、他ならぬおまえが言うことだ。応援するぜ。笑って見送らせてもらう」
「すまん。サーベルタイガー。おまえは何かやりたいことはないのか?」
「うーん。俺はバトルはむしろ好きだ。だが、もっとこうショーアップしたのをやりたいんだ。俺はプロレスをやりたい」
「おおっ、いいじゃないか。今までのお礼を兼ねて二つ名とリングネームを贈らせてくれないか?」
「うむ。喜んで受けよう。どういうやつだ?」
「シベリアの狂虎。サーベルタイガー・ジェット・シンというのはどうだ?」
「うれしいぜっ! ようしっ! 『蜂幡プロレス』旗揚げだっ! 一緒に来たい奴は来てくれっ!」
サーベルタイガーの呼びかけに、カード化されていたペリカン、馬、ジャガー、鶴、ロボット、サーベルじゃないタイガーなどが賛同し、飛び去って行った。
「ようしっ! わしは『蜂幡酒造』旗揚げだっ! 一緒に来たい奴は来てくれっ!」
ドラゴンの呼びかけに、カード化されていた八岐大蛇、猿酒を作りたいゴリラ、酒の瓶をぶら下げた狸などが賛同し、飛び去って行った。
他にも、陶芸職人になりたかった。お笑い芸人になりたかった。漫画家になりたかった。悪役令嬢になりたかったなどと言って、相手方のカードは何処かに飛び去り、ついには手元に1枚のカードも残らなくなった。
ただただ、呆然として佇む相手方の二人。それに対して……
「ほっほっほっ、これはあたしの『大勝利』ね」
ドヤ顔で勝ち誇る蜂野先生。
先生。いくらなんでもこれはひど過ぎます。相手方のお二人だって、時間かけて苦労して、あのカードデッキを組んだんですよ。それが一瞬でなくなったんじゃあ……
「それもそうね。貴方たちにはあたしが使っていたカードデッキを1セットずつ差し上げるわ」
呆然としたままカードデッキを受け取る相手方の二人。
しかしほどなく、「女王蜂様」カードが発動すると、対戦相手のカードが全部飛び去っていってしまうため、使用禁止になったそうである。
ま、そりゃそうだ。