42 女王蜂様 モンスターバトルを見物する
「おおう。やってるやってる。あれは確かにドラゴンとサーベルタイガーねぇ」
「おもしろーい。どっちも頑張れーっ!」
ドラゴンとサーベルタイガーの対決を、M1戦車の上から目の当たりにした女性二人の感想である。
もちろん、先が蜂野先生で、後が紗季未だ。
特に紗季未は絶対どこぞの3D映像のノリで見ていると思う。
それはそれでいいんだけど、よりによって、場所が蜂幡一丁目の交差点。東西に走る国道と南北に走る国道が行き交うところ、早い話がうちの町、最大の交通の要所だ。
そこでですね。対決が行われている訳ですよ。ドラゴンとサーベルタイガーの。
普通ならこれは警察の案件だっ! いやいや、自衛隊だろうの議論になるところだが、みんな普通に見物しているのは、蜂野先生の人徳か? 悪徳か?
などと思っていると、またも車長展望塔の蓋がパカリと開き、車長の石積さんがポッコリ顔を出した。相変わらず可愛い。
「女王蜂様。あそこにいられると、交通妨害にもなりますし、120mm滑空砲撃ちます?」
わお、石積さん。可愛い顔して、過激なことを……ってか、いやいや、こんな市街地で他の戦車の装甲貫通する砲を撃ってどうするんですか?
「うーん。それも面白そうだけど、もうちょっと近くに寄って見ようよ。何かその方が面白い気がするよ」
「了解」
「こうちゃん。近くに寄って見るんだって、どうなっているか楽しみだね」
紗季未。やっぱり君は蜂野先生の言うとおり大器だね。
◇◇◇
謎はあっさり解けました。ええ、名探偵を呼ぶまでもなくですね。
東西南北全て二車線の交差点の真ん中で行われていた訳です。
何って、カードバトルが……
「俺のターンッ! ドローッ! ドラゴンの咆哮を発動っ! デッキから三枚のカードをドローし、手札を二枚捨てるっ!」
たちまち起こるドラゴンの咆哮。なるほど、そういう訳ですか。
「ねえねえ。こうちゃん。あの男の人、カードを取ったり、置いたりしているだけなのに、どうして、後ろの本物のドラゴンが吠えるの?」
「うん。紗季未。いい質問だね。普通にカードゲームやってて、こういうことが起きる訳ないよね。でもね、マンガやアニメだと演出効果で出してたんだよ。そこに蜂野先生の魔法がかかっちゃったもんだから、この騒ぎだよね」
などと話していたら、車長展望塔の蓋がパカリと開き、車長の石積さんがポッコリ顔を出して、
「女王蜂様。あそこにいられると、交通妨害にもなりますし、12.7mm重機関銃撃ちます?」
また、過激なことを……
「それも面白そうだけど、あたしが行って、場所空けるよう話してくるわ。ちょっと待ってて」
蜂野先生、足取りも軽く、鼻歌混じりで、交差点の真ん中に歩いて行く。
蜂野先生が向かうと、カードバトルをしていた二人は平謝り。一人などはテーブルと椅子を片付けようとしている。
あっさり話がついたのかなあと見ていると、蜂野先生が二人に何か言いだして、早足でこちらに戻って来た。
「話はついたわ。あたしがあの二人とカードバトルして、勝ったら、どいてくれるって」
ちょっと、何でそういう話になってるんですか? さっき、あの二人どいてくれようとしていませんでした?