41 女王蜂様 そのまま突っ込ませる
「わあわあわあ。この5人はねっ! 蜂幡高校のミリタリー研究会の3年の部長の西住先輩と副部長の武部先輩、同じミリタリー研究会の2年の五十鈴先輩と1年の秋山と冷泉だよーっ!」
一気にまくし立てる僕を紗季未は唖然とした顔で見ていたけど、そこに蜂野先生、小走りに駆け寄り……
「聞いた聞いた? 北原さん? 新川君たらさあ、相手が『大暴れ大将軍』の時はさあ、ケツマンダンスまともに見ようともしなかったくせに、相手が女の子となるとこれだよ……」
「こうちゃん……」
やめてーっ、やめてーっ、鋭い視線で見るのはやめてーっ
「だだだ、だってさっ、このまままた何回も踊らせたら、またダウンしちゃうよ。そしたら、いつまでたっても学校行けないし……」
蜂野先生、笑いを噛み殺しながら、紗季未を宥める。
「まあ、ああ言ってるし、許してやって……ぷっ、ぷぷぷ、ぷぷぷっ」
うわ、性格悪…… 自分でけしかけたくせにー 紗季未が頷いたから、まあいいけど。
◇◇◇
「ところで、戦車で迎えに来たと言っても、定員5名はもう乗ってますよね。僕たち乗れないじゃないですか?」
僕の質問に、蜂野先生、もう何度目かのドヤ顔。
「やあねえ。戦車随伴歩兵に決まってるじゃなあい」
「はあ、そういうことですか……」
「戦車随伴歩兵って、なんですかあ?」
紗季未、もっともな質問。
要は戦車は無敵でもなんでもなく、弱点はある。最大の弱点は視界が良くないことだ。
そのため、敵の歩兵がこっそり近づいてきていることに気が付かず、至近距離から対戦車砲を撃たれて、破壊されたりする。
それを防ぐためいるのが、戦車随伴歩兵で、視界の弱点を補い、近づく敵を排除する役目がある。
で、戦車随伴歩兵は移動時には戦車の上に乗るのだ。
「わっ、なんか楽しそうっ!」
紗季未はこういう話になると凄く明るくなる。まあ、それにかなり救われているんだけどね。
◇◇◇
「戦車前進っ!」
キュラキュラキュラキュラ
車長の石積さんの号令一下、アメリカ陸軍戦車M1エイブラムスはゆっくり動き出した。
「それにしても、M1エイブラムスですか?」
僕の何気ない一言に蜂野先生は鋭く反応した。
「そおよおー、これでも気を遣ってんのよー。ドイツ製にしないとか、『パ◯ツァーフォー』と言わせないとか」
いえ、気を遣う人はそもそもこういうこと自体しませんから……
◇◇◇
街並みは昨日とガラリと変わっていた。駅からはたくさんの人が歩いてくる。
応援用の団扇を持っている人たちは、アイドルか演歌のコンサートに行くのだろう。昨日の今日で、もう蜂幡フットボールクラブのユニフォームを着ている人がいるのには驚いた。
いや、そもそも「銀河鉄道」自体が凄いので、空を飛ぶ列車の写真を撮りまくっている人もいる。
僕の知らないところでも状況は変わって行っているようだ。
蜂幡クインビーズと書かれた大型バスとすれ違ったが、あれはプロ野球チームだろう。プロ野球チームも出来たらしい。
うちの近くの4つの回転寿司店、スシタロー、蔵之介寿司、浜ちゃん寿司、KP寿司が寿司握りバトルリーグ戦というのを始めていた。寿司職人のマンガやドラマに憧れて変身したのだろう。そこも凄い賑わいを見せている。
◇◇◇
「女王蜂様」
車長展望塔の蓋がパカリと開き、車長の石積さんがポッコリ顔を出した。何か可愛い。
「この先でドラゴンとサーベルタイガーがバトルしてるという情報が入りましたが、迂回したり、停まると学校遅刻になっちゃうので、そのまま突っ込みますね」
「うーん」
蜂野先生はちょっとだけ考えて、こう言った。
「まあ、学校なんざ遅刻したって、いいんだけどね。ドラゴンとサーベルタイガーのバトルって、何か面白そうだから、そのまま突っ込んで」
「了解」
ん? ん? 何か聞き流してしまったけど、ドラゴンとサーベルタイガーのバトルって危なくない?