40 女王蜂様 いきなり殿様になる
その戦車はゆっくりと僕の家の前で停まった。
近所からはさっきの3人の大将軍様の時も人が集まってこなかったけど、今度も誰も来ない。
蜂幡市中に蜂野先生の魔法が蔓延して、みんなそれどころじゃないのかもしれない。
まあ、空を見れば、よりによって僕の元兄ちゃんの作った銀河鉄道が飛び回っているのだから、何を今更である。
しかしっ! 僕は蜂野先生にツッコミを入れるっ! そうせずにはいられないのだ。何故か。
◇◇◇
「先生っ! 白馬の次は戦車ですか? 普通のお迎えはないんですか?」
蜂野先生、またもドヤ顔。
「ふっふ~ん。凄いでしょう~」
いえ、褒めてませんって。
◇◇◇
車長展望塔の蓋がパカリと開き、中から可愛い女の子が顔を出した。何故か右手にちょうちんを持っている。
女の子はちょうちんを持ちながら、器用に戦車から降りた。
その後も、戦車内から続々と可愛らしい女の子が降りて来た。みんな右手にちょうちんを持っている。
全部で5人いる女の子たちは右手にちょうちんを持ったまま、横一列にきれいに並ぶとぺこりと頭を下げた。
「女王蜂様。お迎えに上がりました。車長の石積です」
「通信手の叫です」
「砲手の血吸です」
「装填手の泣屋魔であります」
「操縦手の贅脆です」
「うむ。大儀である」
蜂野先生はいつの間にやら持ち出した床几に腰かけて、扇子で自らを仰ぎながら、応対した。
先生。それでは女王様ではなく、殿様です。
◇◇◇
紗季未はまたもしげしげと5人の女の子を見つめている。あんまり、いい予感がしない。
「先生っ!」
わっ、紗季未が何か質問するぞ。話が変な方向に行かなければいいけど・・・
「この人たち、何でみんな、ちょうちん持ってるんですかあ?」
蜂野先生、ニヤニヤして僕の方を見ながら回答。
「そうねえ。それは新川君がよっく知ってると思うわ。アニメオタクでもあるしねえ~」
うっ、確かに知っているが、そう言われちゃうと、言いづらくもなってくる。
「先生っ」
紗季未はちらりと僕の方を見たが、また、質問する。
「この人たちもみんな蜂幡高校の生徒だったんですかあ?」
「そうよん」
「ふうん。誰だったんだろう。分からないなあ」
ここで蜂野先生、満面の笑みで、
「その言葉を待ってましたあっ! では、ここで大笑戦車部名物『ちょうちん◯んこう踊り』行ってみようっ!」
たちどころにミュージックスタートッ!
紗季未はまたも真剣な表情で『ちょうちん◯んこう踊り』に見入りながら、しきりに首をかしげている。
いや、これじゃ、さっきの3人の大将軍様の時と同じパターンだって。
僕の家が、疲れて寝る人の収容所になっちゃうよ。これは何とかしないと……