38 女王蜂様 分かるまでダンスさせる
「あたしの『働き方改革』はその人間の一番やりたいことをやらせた方が成果が出るに決まってんじゃんだからねー。やりたいことが重なれば、まあ、こういうことも起こる訳よ」
「でっ、でもっ」
僕は前から気になっていたことを聞いてみた。
「みんながみんな、自分のやりたいことやってたら、収拾つかなくなりません?」
「やあねえ。何言ってんのよお」
蜂野先生。あきれ顔。
「新川君も高校生の端くれでしょ。V・ド・グルネーの『自由放任』とA・スミスの『見えざる手』くらい覚えときなさい。放っときゃ勝手に何とかなるって昔の人も言ってんのよ」
「そう……なんですか」
「そうよお。決まってんじゃん」
いや、ちょっと待て。何か口先八丁で誤魔化された気がするぞ。それに高校生の端くれって、その学校しっちゃかめっちゃかにしたのは蜂野先生では?
◇◇◇
そんな僕の思いをよそに、紗季未は興味深そうに白馬にまたがった「大暴れ大将軍」を見つめている。
「凄おい。ひょっとしてこのお馬で学校まで送ってもらえるんですか?」
紗季未の質問に、蜂野先生ご満悦。
「そうよお。白馬に乗った王子様が迎えに来てくれるなんて、女のロマンよね。ロ・マ・ン❤」
どの辺がロマンなんだか、男の僕には分からない面もあるが、王子様ではなく、将軍様では?
「でも、この人たち、学校知ってるんですか?」
紗季未の更なる質問に、蜂野先生更にご満悦。
「そうよお。元は3人とも蜂幡高校の生徒だもの」
紗季未はびっくり。
「えーっ、そうなんですか。誰なんだろ?」
すると……
「余の顔を見忘れたか!!」
「余の顔を見忘れたか!!」
「余の顔を見忘れたか!!」
いや、それは欠侘苛鰻さんの顔は見忘れませんが、元がどなたかは分かりませんよ。
◇◇◇
「しょうがないわねえ。じゃあ、第二ヒント!」
「先生、いつからこれはクイズ番組になったんですか?」
もちろん、蜂野先生は僕のそのツッコミはスルーだ。
「ミュージックッ! スタートッ!」
蜂野先生が蜂の針を一振りすると、音楽スタート。
♪ちゃららちゃっちゃっ ちゃっちゃっちゃっ ちゃららちゃっちゃっ ちゃっちゃっちゃっ
世界一イントロが長い曲と言われたりするあれだ。
三人の欠侘苛鰻さんは一斉に馬から下り、ダンスの態勢に入った。
♪あ ほ~れ ほれほれ ケツマンダンス
踊りまくる三人の欠侘苛鰻さんの顔を紗季未は真剣な表情で観察している。
三人の欠侘苛鰻さんが一曲踊り終わった後、蜂野先生は紗季未に尋ねた。
「北原さん。どれが誰だか分かった?」
紗季未は頭を振った。
「いいえ。分かりませんでした」
「んじゃ、もう1回ね。ミュージックッ! スタートッ!」
一瞬、三人の欠侘苛鰻さんの顔が青ざめたが、蜂野先生はお構いなしで音楽を再開。三人はまた踊りだした。
2回目のダンスが終わった後、蜂野先生はもう一度紗季未に尋ねた。
「北原さん。どれが誰だか分かった?」
紗季未はまた頭を振った。
「いいえ。分かりませんでした」
「んじゃ、もう1回ね」
おいおいっ! 蜂野先生ひど過ぎ。紗季未は生真面目過ぎ。
かくて、5回目のダンスが終わった時、紗季未は大きく頷いた。
「分かりましたっ! 3年の馬術部長の横内正子先輩と同じ馬術部2年の田村亮子先輩。最後は馬術部で私たちと同じクラスの大和田伸子ちゃんですねっ!」
「せいか~い。さすが大器ねぇ。新川君も見習いなさいよっ!」
これを見習っていいんですかあ~?
「俺は旗本の三男坊新田徳之助だ」
「俺は旗本の三男坊新田徳之助だ」
「俺は旗本の三男坊新田徳之助だ」
それだけ言うと、5回のケツマンダンスを踊り、疲れ果てた3人の欠侘苛鰻さんはその場で崩れ落ちた。
絶対、これは見習うことじゃないよね。
序盤で蜂野先生がグルネーとスミスについて語っていますが、そんな人はいないとは思いますが、相当無茶苦茶な理論ですので、学生さんがこの理論用いると点がもらえません。危険だから真似しないでください。