32 女王蜂様 柱の陰でほくそ笑む
こんな朝から誰だろうと思って、玄関に出て見れば……あれ?
「よう。新川っ、久しぶりー」
「なっ、吉田に小林。どうしたんだ急に? それに背広ネクタイのそのかっこ?」
「迎えに来たんだよ。俺たちの監督とマネージャーを」
「うっそ。吉田君に小林君? どうしたの? そんな背広にネクタイで?」
後から出て来た紗季未もびっくり。
「おっ、北原。おまえ、新川と仲いいなって思ってたけど、高校生でもう同棲してんの?」
「ばっか。そんな訳ないじゃん。こうちゃんの家で朝御飯ごちそうになってただけだよ」
照れながら弁解する紗季未。ちょっと可愛い。
◇◇◇
吉田に小林。中学時代の同級生でゲーム仲間だ。
僕も相当のゲーム好きだが、こいつらは桁が違う。
ゲーマーでもあるが、プログラミングもこなし、情報工学を早くから徹底的に勉強したいという理由で、僕や紗季未と同じ蜂幡高校ではなく、蜂幡工業高専に進学した連中だ。
そして、こいつらについて、特筆すべきことは……あっ
「おまえらもしかして、父さんが監督になる蜂幡フットボールクラブの?」
「正解! 社長とGMやらせてもらうよ」
◇◇◇
「ワールドプロフットボールクラブをつくろう」という世界的に展開しているネットゲームがある。
要はプロサッカーチームを作り、いい選手や監督を揃え、チームを世界で優勝できるくらい強くし、さらにスタジアムや本拠地のある町を発展させていくゲームなんだけど、吉田と小林は世界ランカーに入っているくらい、このゲームに通じている者たちだ。
そいつらが父さんが監督を務める蜂幡フットボールクラブの経営とチーム強化を司る。心強い話だ。しかし……
「なあ、おまえらの社長とGMは信用できると思う。だけど、監督がうちの父さんで大丈夫なのか?」
◇◇◇
「新川。あれは中の人こそ、おまえの父さんかもしれないが、世界のコンブチャ・オヒムだぞ」
「そうか。そうだな」
遠回しに自分の父親をディスられた気もしなくもないが、まあよしとしよう。
◇◇◇
「分かっているとは思うが、俺たちも頑張るからさ。期待しててくれよ。北原」
吉田が紗季未に声をかける。
「うっ、うん。頑張ってね」
「あーっ、北原、おまえ、分かってないな~」
小林も声をかける。
「えっ? えっ? どういうこと?」
「いいか。蜂幡フットボールクラブが世界的なビッグクラブになれば、今、スペインに行っているおまえの弟の拓也もご両親も蜂幡に呼び戻せるんだぞ」
「あ」
次の瞬間、僕は見た。そして、聞いた。
紗季未の全身が白く発光し、ドクンという大きな心臓の音をたてるのを。
「弟とお父さんとお母さんが蜂幡に帰ってくる……」
紗季未はそのまま絶句した。
その時、蜂野先生は柱の陰で、ほくそ笑んで、様子を観察していたのだけれど、その時の僕には、そのことに気付く由もなかった。
紗季未ちゃんの弟拓也君が、ジュニアアスリートとして、スペインのサッカークラブにいることは、第1部分で語られています。
よろしければ再読をm(__)m