31 女王蜂様 人の家で朝ご飯を5杯お代わりする
紗季未を家に呼びに行くと、もうバッチリ制服姿でスタンバイ。
さすが、紗季未。
でも、もうちょっと砕けた姿も見てみたいというのは贅沢な悩みか?
「こうちゃん。何か変なこと考えてない?」
いえ、そのようなことはないですよ。多分……
◇◇◇
そして、僕の家に連れて来るなり、紗季未は僕の左の耳たぶを引っ張るし。
「こうちゃん。あの娘。何?」
指差した先は、はい、蜂幡ハニーちゃん。
「うん。信じられないと思うけど、あれは京太朗兄ちゃんだよ」
「うっ、うそっ? 京太朗さん?」
かちんこちんに固まる紗季未。
無理もない。憧れてた隣家のかっこいいお兄さんが、レールむすめ蜂幡ハニーちゃんと来たもんだ。
「そう。レールむすめの蜂幡ハニーになったんだよ。紗季未ちゃん。可愛いでしょ?」
「はっ、はい。可愛いです……ね」
さすがの紗季未もこの事実の受け入れには、多少の時間を要したようだ。
◇◇◇
さて、今更ながらシュールな朝ご飯の始まりだ。
朝食のちゃぶ台についているのは、真ん中から時計回りに……
蛍川かかし(ばあちゃん)
コンブチャ・オヒム(父さん)
その18歳のマネージャー(母さん)
蜂野先生(しっかり母さんの隣で、すぐお代わりをもらえる場所をキープした)
蜂幡ハニー(兄ちゃん)
僕
紗季未の順である。
しかし、一体どこの世界に朝から人の家でご飯を5杯お代わりする女王様がいるというのだろう。
しかも、1杯目は納豆、2杯目は卵かけご飯、3杯目は塩鮭、4杯目は味付け海苔、最後の5杯目は豆腐とわかめの味噌汁をぶっかけて食べるという念の入りようである。
イラストレーション 秋の桜子様
更に言うと、食べながらベラベラしゃべるもんだから、ご飯粒飛ばす飛ばす。
「ほっほっほっ、あたし、さっちゃん、ハニーちゃんに紗季未ちゃん。美人が4人も慎ましやかにぃ~。まるで~、『若草物語』~。四姉妹~」
先生、先生。長女が朝からご飯5杯お代わりして、しゃべりながらご飯粒飛ばす「若草物語」なんてありません。どこが「慎ましやか」なんですか?
「めきみちゃ~ん。『若草物語』って、素敵~」
母さん、かぶせるし。
「きゃー、めきみお姉さまって呼んでいいですかあ~」
にっ、兄ちゃん……
紗季未は全く動ぜずに、よく噛んでご飯を食べている。
偉いね。君。
◇◇◇
「何でもね。蜂幡市公会堂に魔法がかかって、やたら大きくきれいになったって。そのこけら落としに午後3時から『ジ・エンカーズ』の公演やることになってね。11時にマネージャーのメガ猫ね~さん(徳造さん)が迎えに来ることになったから、それまで休んでるわ」
これは蛍川かかし(ばあちゃん)。
「夜勤明けなんだから、お風呂入って寝直すよ。恒太朗、覗いちゃだめだよ❤」
いかに可愛らしくてもですね。中の人が実の兄の入浴シーンなんぞというものは……覗きませんっ! ……と思います。
だから、紗季未さ~ん。怖い目でジト見しないで~。
ピンポーーン
僕の朝からの苦悩を遮るかのように玄関のチャイムが鳴った。