30 女王蜂様 興奮してレールむすめに飛び付く
「そうそう。さっちゃん。これねぇ、蜂幡鉄道のレールむすめ、『蜂幡ハニー』なんだよ。だから、『ハニー』って呼んで」
「元」兄ちゃんのその言葉に、蜂野先生と母さん、「元」兄ちゃんに飛び付いて大興奮。
「まああ、可愛いーっ、ハニーちゃんっ、ハニーちゃんっ!」
「『蜂幡ハニー』ちゃん? 名前からして他人とは思えないわん。あたしは『蜂野めきみ』よん」
えーと、この話、いつまで続くんですか。
僕、そろそろ、この場で立っている気力がなくなりそうなんですけど。
◇◇◇
ボオォォォォーッ
汽笛がまた鳴った。
「何だろう? あの汽笛?」
蜂幡鉄道にSLはないはずだし、ここは海が遠いから船の汽笛も考えられない。
そんな僕に『蜂幡ハニー』ちゃんこと京太朗兄ちゃんはゆっくり近づいてくると、笑顔で言った。
「恒太朗。窓を開けてみて……」
若返った母さんもそうだけど、何て可愛らしい笑顔を見せるんだろう。
僕の鼓動は高鳴った。
いやいや、いけないいけない。僕にはもう紗季未が。
そして、窓を開けた僕の目に飛び込んできたのは……
◇◇◇
汽笛を鳴らしたSLもそうだったけど、空を飛び交う列車の数々。
「蜂幡ハニー」ちゃんこと京太朗兄ちゃんはすっかり小さくなった背で、僕の顔を仰ぎ見ながら、更なる笑顔でこう言った。
「恒太朗。『銀河鉄道』だよ」
そうだ。「銀河鉄道」だ。
当時、中学生だった京太朗兄ちゃんが、幼稚園に通っていた僕に繰り返し話してくれた「銀河鉄道」だ。
良かった。兄ちゃん。「レールむすめ」は正直ドン引きだけど、「銀河鉄道」の夢も捨ててなかったんだね。
「見たー。新川く~ん。あの列車ねぇ。全部、満員で予約も一杯なのよん。ふふふ。これで蜂幡市は宮沢賢治先生の岩手、松本零士先生の福岡に並ぶ『銀河鉄道』の聖地。あはははっ、これでまたガッポリーッ!」
蜂野先生、さっきまでの僕の感動を返してっ!それにまた、どっかから苦情が来ますって!
◇◇◇
「ところで、この外人のおじさん誰なの?」
兄ちゃん、やっとそれに気付きましたか。それはね、僕たち兄弟のお父さんですよ。
「何だって、父さん、この部屋で寝てるのさ?」
それはそのとおり。元はと言えば、母さんが父さんに東側の部屋で寝るよう指示出して、それにあっさり従った父さんが元凶ですよね。もともと、東側の部屋、兄ちゃんの寝室だし……
「まあまあ、朝ご飯にしましょ。 こうちゃん、紗季未ちゃんも呼んできてーっ」
母さん、力技でごまかしましたね。