29 女王蜂様 青少年健全育成条例について語る
「お父さん。いくらさっちゃんをゆうべあたしにNTRされたからと言って、いきなりこれは凄すぎませんか?」
淡々と語る蜂野先生に対し、父さん、もう大パニック。
「わっ、私は知らないんだっ! 本当に知らないんだっ!」
ここで母さん、深刻そうな顔を見せて一言。
「結婚27年。父さんがそういう人だとは思いませんでした」
「ちっ、違うっ! 私は無実だーっ!」
「それより、お父さん。その女の子、仕事用の制服を着用しているようではありますが、18歳以上か、微妙な外見ですね~。下手をすると、蜂幡青少年健全育成条例に抵触しますわよ」
「!」
蜂野先生の一撃に父さん絶句。
「ようやく新川家からもロリコン性犯罪者が出ましたか。あたし、実家に帰らせていただきます」
いや、父さん、婿養子だから、母さんの実家ここだし。
それに「ようやく」って何? 「ようやく」って?
父さん、もう真っ青でピクリとも動かないし……
◇◇◇
「うるさいなあ。夜勤明けなんだから、静かに寝かせてよ」
アニメキャラ風の女の子は目をこすりながら、ゆっくり起き出した。
そして、「わっ!」と叫ぶと、元サッカー日本代表監督に変身していた父さんから離れた。
「あ、あんた、誰?」
それから、ぐるりと周りを見回すと、僕に気付き、声をかけた。
「こっ、恒太朗っ! こっ、この人たち誰なの?」
◇◇◇
「ま、まさかっ! 京太朗兄ちゃん?」
「うん。可愛いでしょ? 『レールむすめ』になったんだ」
後ろでは、蜂野先生と母さんが大爆笑している。
うわっ、趣味悪っ! 二人とも最初から知ってやがったなっ!
◇◇◇
新川京太朗。僕より10歳も年の離れた兄だ。
10歳も離れると兄弟ゲンカもなく、兄ちゃんは僕の憧れでもあった。
何より筋金入りの鉄オタで、まだ幼かった僕に鉄道車輛の種類や大好きな「銀河鉄道」について、熱く語る兄は子供心にも格好良かった。
そして、今は夢を叶え、鉄道会社に入った兄を僕は今でも尊敬していた。
そ、その憧れの兄ちゃんが、レッ? レールむすめぇ~?
◇◇◇
「まあ~っ、きょうちゃん、すっかり可愛くなっちゃって、何それ、何それぇ~?」
「え? この可愛い女の子、もしかして母さんっ? うんこれねえ、『レールむすめ』って言って、各鉄道会社ごとにいるアイドルマスコットキャラなんだ。前からこれになりたかったの」
「そうよお。母さんよお。嬉しいわあ。これはもうきょうちゃんと二人で、新川家の美人姉妹ユニット結成ね」
「嬉し~。ねえ、母さん。二人でおめかしして、タピオカミルクティー飲みに行こうよ」
「いいわね~。でも、母さんなんて言っちゃだめ、さっちゃんと呼びなさい」
「はーい。さっちゃん」
「うふ。きょうちゃん可愛い」
兄ちゃん……ぼくの憧れだった京太朗兄ちゃん……




