28 女王蜂様 有料チャンネルを始める
◇◇◇(承前)舞台裏◇◇◇
「とにかく、あたしら女王蜂はどの世界に行こうが、キーパーソンは見つけなければいけないの。それが初日から見つかったというのはすごくラッキー。だから、北原さんは守らなければいけないんだけれど、それを新川君がやってくれれば、こっちも有難い。ヘタレ男子ほど一途だからね」
「まあ、あたしとしちゃ、あのヘタレ息子があのまま優柔不断でズルズルいったあげくに、他の男に紗季未ちゃんを取られて、一人でセンチメンタルにいじけるという『ヘタレ敗戦の方程式』に陥らなかっただけでも有難いわ」
「さて、お子ちゃまたちは『キス』で満足しておねむになっちゃったみたいだしい。いよいよこれからが、あたしたちの本番。アダルト・アーバン・リリー・セクシャル・ナイトの始まりよん」
「うふん。待っていたわ。めきみちゃん」
「では、いざっ! あ、無料会員及び18歳未満の良い子はここでさよーならー。この続きはペイパーヴューミッドナイトXチャンネルでねー」
「ああもう、めきみちゃん、早くぅ」
「も~、さっちゃんたら、せっかちさんなんだからぁ」
画面は一面のノイズに……
◇◇◇
ボオオオオオオー
翌朝、僕を起こしたのは汽笛の音だった。
この段階で異変に気が付かなかければいけなかったんだけれど、最初に僕がやったことは、鏡を見ることだった。
まだ……変身はしていない。
何だかガッカリしたようなホッとしたような複雑な気分。時刻はまだ朝6時。もうちょっとだけ寝られるかな?
「ぎいやああああ」
だけど、一階から聞こえて来た悲鳴は、僕の目を完全に覚ました。
あれはまごうことなき父さんの声だ。
父さん……新川家では、群を抜いて存在感が薄い父さん。
一体、何があった?
僕は足早に階段を駆け下り、一階に向かった。
◇◇◇
父さんが寝ていた一階の東側の部屋に飛び込んだ僕は絶句した。
布団の中で硬直している父さんに抱き着いて寝入っているのは、アニメキャラ風の制服姿の女の子。
僕の姿を認めた外人サッカー監督姿のままの父さんは情けない声を出した。
「こ、恒太朗。たっ、助けてくれっ!」
僕も全身を襲う脱力感に抗いながら、ようやく声を絞り出した。
「た、助けろったって、僕はなにをすればいい訳?」
「わっ、私にも分からん……」
そんな……この状態で、父さんに分からないことが、僕に分かる訳ないじゃないか。
そこに現れたのは、ボサボサ頭にネグリジェ姿の二人。
そう、蜂野先生と母さんだ。
蜂野先生は自分の顎を右手の人差し指と親指で挟むと一言。
「ほほう。これはこれは……」