26 女王蜂様 ヤヴァくなると とっととずらかる
僕はパラパラとラノベのページをめくりだした。
「ふっ、やったわね。さっちゃん」
「こうちゃ~ん。そのラノベ、使い終わったらベッドの下に置いておいてね~。明日、お母さんがこうちゃんの部屋掃除して、机の上の目立つところに置き直しておくから~」
ひどい言われようだが、その時の僕には、抗う術もなかった。
◇◇◇
ゴンッ
「いてててて」
僕は脳天に加えられた衝撃でラノベを下に落とした。
振り返ると、紗季未がお盆を両手に持って、少し涙目になっている。
どうやらまた紗季未に救われたようだ。
「やるわね。紗季未ちゃん。それぐらいじゃないとうちの嫁は務まらないわ」
「よーしっ、さっちゃんっ! 次はまたあたしにやらせてくれる?」
えーっ、先生、まだやるのーっ?
◇◇◇
「あたしのターンッ、ササササッ」
蜂野先生、わざとらしく僕のそばに近寄ってくると、
「新川君、新川君、このラノベのR18版、読ませてあげようか、ほれほれ」
先生は僕の前でさっきのラノベ「18歳になった僕の母親と22歳のナイスバディ美人クラス副担任が百合になった件」を再度ちらつかせる。
むうーっ、言われてみれば、表紙イラストの肌色部分がだいぶ広がっているぞ。
「で、でもっ、僕まだ15歳だし……」
「やあねぇ、そんなもんはあたしが蜂の針で魔法をかければ、たちまち18歳よん。選挙も行けるし、競馬競輪競艇パチンコ、酒も煙草もやり放題よん」
何かいろいろ間違ってはいるが、肌色部分の拡大したラノベは魅力的……わっ!
僕らの後方には涙ぐんだ紗季未が高々とお盆を振り上げていた。
◇◇◇
「ヤヴァい、今度という今度はヤヴァい。とっととずらかるよっ! さっちゃんっ!」
「合点だっ! めきみちゃんっ!」
先生と母さんはとっとと部屋から逃げ出してしまい、部屋には僕と紗季未だけが残された。
全くあの二人と来た日には……
◇◇◇
紗季未は黙ってお盆をちゃぶ台に置くと、ゆっくりと僕に近づいてきた。
もう、二人の間に30cmくらいしか距離がないところまで近づいた紗季未は静かに、しかし、迫力を込めた声で切り出した。
「こうちゃん……」
「はっ、はひ」
「こうちゃんもやっぱり男の子だから……」
「はい……」
「ああいう、蜂野先生みたいなボンッキュッボンッが好きなの?」
ボンッキュッボンッとは死語では……とも思ったが、当然、そういうことを言いだせる雰囲気ではない。
「いえ、そのようなことは……ないです。決して……」
「じゃあ、どういうのが好きなのっ? 言ってっ!」
「ぼっ、僕は紗季未のような……ほうが……」