23 女王蜂様 お盆で殴られる
「やあねぇ。マネージャーは新体操するもんでしょ」
「そういうものなの?」
「だから、もっとアニメを見なさいって言ってるんです。ザッツクールジャパン オーイエー 仏血義理だぜ」
だから、先生。言ってる言葉の意味が分からない上に、ご飯食べながら言うもんだから、ご飯粒が口から飛び出していますって。
「まあまあ、せっかくだから、みんなで晩御飯にしましょ。北原さんも一緒にね。遠慮せずにたーくさん食べてね」
いや、これ先生が作った晩御飯じゃないし、おまけに先生が一番おかわりしているし……
「ふーん」
結局、父さん母さん僕と先生に紗季未の5人での晩御飯になったけど、先生は食べながら、ちらちらこっち見ながら、何やらうなっているし……
「まあ、新川君は時間の問題ね。何かの拍子にすぐ変身するわ」
何か少し馬鹿にされたような気がするのは気のせい?
「ふーん」
今度は紗季未の方をちらちら見だした。
ことん
先生はご飯茶碗をちゃぶ台に置くと紗季未の方に向き直した。
「えっ?」
当惑する紗季未をよそに、先生は例によって、どこから取り出したんだか分からない太い黒縁の眼鏡をかけると、紗季未の胸をじっと見入りだした。
「えっ? えっ? 先生、何を?」
慌てだす紗季未。
思わず手に汗握り、次の展開を期待する僕……じゃなかった。何となく惜しいけど……でもない。
幼馴染を守らねばっ! うんっ!
「先生っ、何をするんですかっ?」
僕の言葉は完璧スルーされ、次の先生の言葉が出た。
「北原さん。あなた……」
「はい?」
「胸ちっちゃい」
ゴンッ
次の瞬間、紗季未が両手でつかんだお盆が先生の脳天に一撃を加えていた。
「いったぁい。ちょっとしたお茶目なジョークじゃな~い」
先生、先生。紗季未は典型的な普段大人しい子が怒ると怖いだからね。
「まあまあ。紗季未ちゃん。めきみちゃんは『命』と『笑い』どっちが大事と聞かれたら、迷わず『笑い』と答えるからねぇ」
母さん、何なの? そのフォロー。
「さっすが、さっちゃん。ナイスフォローッ!」
ナイスフォローなのかっ?
「先生っ、さっきのがジョークだって言うのなら、私に何が言いたかったんですかっ?」
当たり前だけど、紗季未は怒ったままだ。
「いや、あたしにも北原さんの変身の兆候が全く見えないのよ」
「変身の兆候が見えない? それって何か問題があるんですか?」
「問題はないわ。むしろ、あなたには『可能性』があるってこと」
「『可能性』ですか?」
「あなたは『大器』だってこと」