21 女王蜂様 晩御飯をたかる
かくて「ジ・エンカーズ」の面々は、「メガ猫ね~さん」に変身した徳造さんを迎えに行った上、チェーンの居酒屋で一杯やることになった。
元気だな~。もう、午後8時だよ。じさまとばさまは夜が早いんじゃないの?
アニメキャラの女の子をベテラン男性演歌歌手4人で取り囲んで、チェーン居酒屋で呑む。想像するだに凄まじい光景だけど、僕はもう想像しないことにした。
だって、今日はもう疲れたよ。早く晩御飯食べて、風呂入って、寝たいよ。
改めて玄関の引き戸を開けて、家に入った。
「ただいま~」
「おかえりっ~ 先に食べてるよ~」
うっ、この今日一日で嫌になる程、聞き慣れたこの声は!?
どうやら、僕の長い一日はまだ終わっていないらしい。
◇◇◇
「何で、蜂野先生が僕の家で晩御飯食べてるんですか?」
「やあねえ、異世界から来たヒロインは主人公の家で晩御飯を食べる。これぞ日本のアニメのテンプレじゃな~い」
「知らないですよ。そんなこと」
「え~っ、知らないの~っ、もっと、しっかりアニメ見なきゃダメじゃない~っ。これだから今の若い衆は~」
「今の若い衆は、たって、先生だって22歳でしょう~」
「いいのっ! 異世界から来たヒロインは、主人公の家で晩御飯を食べる! ディスイズクールジャパン! オーグレイト! メジャーの上はビッグやねっ!」
「そのうち、ほんっきで、どっかから苦情が来ますよ」
◇◇◇
「それで、うちの家族の誰が先生を家に上げたんですか?」
「それは、さっちゃんよぉ~」
「うわっ、人の母親を『ちゃん』づけで~、それで母さんはどこ行ったんです?」
「さっちゃんはねぇ~、新川君を驚かせるせるためにスタンバってるの。あ、そうだ。どうせなら北原さんも呼んできなさい。隣の家でしょ? さっちゃん、凄く可愛くなったから」
もう、なんか物凄く嫌な予感しかしねぇ。
◇◇◇
「北原さ~ん。見てて~。さっちゃん、すっごく可愛くなったから」
「はいっ! しっかり見ますっ! 楽しみですっ!」
「うーん。いい娘ねぇ~」
いや、紗季未、こんな時まで優等生発言しなくていいから。
◇◇◇
「それでは、ミュージックスタートッ!」
蜂野先生、蜂の針を一振り。
♪ダンシング サッチッ! ビューティフル サッチッ!
ドアの向こうから姿を現れたのは、レオタード姿で長いリボンを振る僕の……母さんだった……
もう、いっそ一思いに殺してくれ~




