18 女王蜂様 アイキャッチを間違える
蜂野先生のナレーション、ここで声を潜めて、
「ですが、徳造さん、初めて『リティー』を見た時は……」
ディスプレイにアップになる不機嫌そうな徳造さんの顔。
「ふん。『テレビマンガ』か」
「そう。この世代の人は『アニメ』ではなく、『テレビマンガ』と呼ぶんですね。しかし……」
ディスプレイに映る『リティー』の数々の名シーン。
学校に通いながらアイドルレッスンに励むリティー。レッスンのし過ぎで膝に故障を抱えながら、明るい顔でコンサートをこなすリティー。ライバルのアイドルとの激しい人気争い、そして、生まれる友情。
また、ディスプレイにアップになる徳造さんの顔。しかし、今度は目を輝かせ、テレビ画面に見入っている。
「いつしか、徳造さんは、日葵ちゃん以上に『リティー』の世界観にはまっていきます。中でも、徳造さんが惹かれたのは……」
ジャン
効果音と共にディスプレイに現れる眼鏡をかけた猫耳の女の人。
「『リティー』の敏腕マネージャー『メガ猫ねーさん』。まるで実の姉のように、リティーを励まし、諭し、教え導く、22歳の大人の女性」
「最愛の孫日葵ちゃんと二人で、『リティー』にどっぶりはまる幸せな日々、それはこれからも続くはずでした。しかし、ここで徳造さんを大いなる悲劇が襲ったのです」
ここでアイキャッチ。
♪ちゃかちゃかちゃ ちゃかちゃかちゃ ちゃあらあ~
ディスプレイは真っ黒に。そして、右下に白文字で、
「蜂野サスペンス劇場」
◇◇◇
「!。先生っ、先生っ、これはダメですっ」
「なによぉ、新川君、ここからがいいとこなのにぃ~」
「いや、これじゃ二時間ドラマになってしまいます。この話、実録ものでしょう?」
「あ、そう言えばそうねぇ。うん。よく気が付いた。えらいえらい。さすが、あたしの助手」
「先生。僕、助手じゃありません」
「なによぉ。助手ってかっこいいじゃん。明智小五郎に小林少年。バットマンにロビン少年。ブラック魔王にケンケン」
「だから、助手じゃありませんて。それに最後の例えはちょっと違うような……。あ、それに、アイキャッチ変えないと」
「ああ、そうねぇ。あ、せえの、どん」
蜂野先生が蜂の針を縦に一振りすると、たちどころにディスプレイの文字が……
「蜂野・ザ・ノンフィクション」
あんまり変わってない気もするけど、まあいいか。
「ちょっとぉ、いつまで待たせる気なの~」
「徳造さんを襲った大いなる悲劇って何なの~。気になる~。早くしてぇ~」
「あんまり客を待たせると、座布団が飛ぶわよ」
相次ぐ「ジ・エンカーズ」からの苦情。
でも、いつからここは両国国技館になったんですか?