17 女王蜂様 プライバシーを侵害する
「それでは始めましょう。鹿山徳造さんの涙なくして、聞けない話を……」
蜂野先生、蜂の針を縦に一振り。
「ステータスオープン、じゃなくて、世界に誇る蜂幡モデルのハイパーズマプラXディスプレイオープン!」
突如、中空に現れる巨大ディスプレイ。
「きゃー、なになに?」
「これから映画が始まるの~?」
「え~? 映画ぁ、じゃ、あたし、お菓子食べながら見たいな~。誰か持ってない?」
「あ、あたしのポケットの中にあった。いつ入れたんだか忘れたやつだけどさ~」
位置来ピロチさんがポケットから取り出したのは、見るからに湿気っているせんべいと形が変形したキャンディのミルキー。
「はい、みんなにあげるね」
「このおせんべいおいしい。湿気り具合がたまんないわ」
「年寄りには湿気ったくらいが柔らかくていいんだよ」
「このミルキーも長いことポケットに入ってたみたいで、熱で変形してるね。おいしい」
「おせんべいは湿気ったくらい、ミルキーは変形したくらいが味わいがあっていいんだよ」
「そうそう。女もおせんべいも湿気ったくらいが味わいがあっていい」
ここで4人全員、がははははと大笑い。
笑っているのはおばあちゃん4人でなく、大物男性演歌歌手4人なんですけどね。う~ん。怖い。
◇◇◇
重厚な音楽とともに、ディスプレイいっぱいに現れたのは、鹿山徳造さんのお顔。
そして、タイトル「実録! 鹿山徳造物語 その涙はマネージャー業務にとっておけ」
「きゃああ。徳造さ~ん」
「やっぱ、かっこいいーっ」
「あ、そのおせんべい、塩味? あたしの醤油味と交換こしない」
「いいよ~」
様々な思いが交錯する中、ドラマは始まった。
◇◇◇
蜂野先生のナレーション。
「鹿山徳造80歳。その生活は常に最愛の孫日葵ちゃんと共にあった」
「じいじ じいじ」
「うーん、何かな~? ひまりちゃーん」
「あら、お孫さん可愛いわねぇ」
「思わぬところで、徳造さんの隠れた一面を知れたわ」
「お孫ちゃんにデレる、徳造さん可愛い」
「ますますファンになったわー」
せんべいかじりながらディスプレイに見入る「ジ・エンカーズ」。
でも、これってプライバシーの侵害じゃないの?
◇◇◇
また、蜂野先生のナレーション。
「そんな日葵ちゃんのお楽しみは日曜朝のテレビアニメ『魔法のアイドル マジカルリティー』を見ることだった」
「リティー、リティー」
「うんうん。ひまりちゃん。じいちゃんと一緒にリティー見ような」
徳造さん、テレビ録画を再生開始!
「♪魔法の 魔法の 魔法のアイドル リ-ティー リーティー」
キャッキャッと喜ぶ日葵ちゃん。
にこにことして見守る徳造さん。




