16 女王蜂様 ジ・エンカーズにマネージャーをつける
「ところでさー、蜂野先生」
話を切り出す「蛍川かかし」ことうちのばあちゃん。
「蜂幡老人会演歌カラオケクラブ『ジ・エンカーズ』のメンバーがこれで揃ったけど、これからどうすんの?」
蜂野先生、札束入り封筒を握り締めながら笑顔で応対。
「今日はもう遅いから、明日の正午にみなさんで、蜂幡高校まで来てください。うちの精鋭動画チームが歌ってるとこ撮影して、ネットに上げます。その後、コンサートやりますね」
「腕が鳴るわねぇ」
意欲満々、あけみハブちゃん。
◇◇◇
ここで、蜂野先生から唐突な一言。
「朗報です。みなさんには一人マネージャーが付きます」
「へ? マネージャー」
「そりゃ助かるけど、誰がやってくれるの? 蜂野先生?」
蜂野先生は笑顔で頭を振る。
げ? まさか? 僕じゃないよね。僕にはあのパワフル「元」ばあちゃんずは制御出来ません。
「心配しなくても、新川君じゃないわよ。あたしの働き方改革は本人が望まない仕事はやらせないの」
読心術でも使うんですか? 先生は。
◇◇◇
「みなさんのマネージャーをやってくれるのはっ!」
ダララララララ
ここでドラムロールが入る。いつも思うけど、音源どうしてるんだろ?
「老人会のアイドルッ! 蜂幡の加山雄三こと、鹿山徳造さんっ! 御年80歳ですっ!」
「きゃあああああああ」
ええっ? 全員が中高年の演歌歌手に変身したはずなのに、どうしてそんなに甲高い黄色い声が出るの?
「えっえっえっ? 本当に徳造さんがやってくれるのっ?」
「やったあ。張り切っちゃうぞー」
「これで『ジ・エンカーズ』も安泰だねぇ」
ここでふと我に返るあけみハブちゃん。
「すっごい、嬉しいけどさあ、何で徳造さんがマネージャーやってくれるの?」
◇◇◇
蜂野先生、左手に蜂の針を持ちつつ、右手で器用にポケットからハンカチを取り出し、おもむろに涙を拭く。札束の封筒はもうしっかりしまい込んだんですね。
「それには、涙なくして語れない物語があったのです」
「え? なになに?」
「何があったの?徳造さんに」
何だかまた、物凄くしょうもない話になるような予感がびんびんするんですけど。僕。