14 女王蜂様 生徒の家族も働き蜂にする
僕の家の玄関は、最近は珍しくなった引き戸だ。
まあ、ばあちゃんの趣味なんだけどね。
蜂野先生は満面の笑みで、玄関の引き戸を開けると……
「こんばんわーっ、新川さちよさーん。お迎えに来ましたよー」
うわ、僕のばあちゃんの名前言ってるし、絶対、この人、ここが僕の家だって知ってたよ。
♪ちゃんちゃちゃんちゃんちゃんちゃんちゃちゃんちゃん ちゃらったーたたたちゃらったーたたた
ちゃらららららららん
いきなり前奏が流れ、それが終わると共に 階段の上から右手にマイクを持った「蛍川かかし」が登場。
うん。うちのばあちゃんだね。あれ。熱狂的ファンだったし、「蛍川かかし」の。(脱力)
「♪蛍の~ 飛び交う川には~ 何故か~ かかしが立っている~」
「キャーッ、カッチー」
蜂野先生と一緒に、凝品一と位置来ピロチが黄色い声を張り上げている光景はなかなかに、いや、ものすごくシュールだ。
いつのまにか、ハートマークと「蛍川かかし」の黒文字が貼られたうちわ振ってるし、だから、どこから出したの、それ?
「♪田んぼじゃ~ ないんだよ~ かかし~ 立ててど~すんだ~」
すっかり突っ込む気力もなくした僕の脇で、紗季未は盛んに拍手している。
「えっ? あれ、さちよおばあちゃん? すごーい、かっこいい」
いや、知ってたけど、本当に素直だね。紗季未。
◇◇◇
「蛍川かかし」が、かつてのレコード大賞受賞曲「蛍の川のかかしの渡し」を歌い終わると、たちまち駆け寄る凝品一と位置来ピロチ。
「さちよさんのカッチー。かっこいい」
「みつえさんの位置来ピロチもかっこいいじゃない」
「かずこさんの凝品一しっぶっ~い」
わいわいがやがや同窓会状態。みなさん七十超えてらっしゃるはずなのに、お元気なこと。
「そういえば、蜂野先生、あけみさんはどうなったの?」
おもむろに、蜂野先生に聞くさちよばあちゃん。
え? ばあちゃん、いつの間に蜂野先生と面識ができたの? 僕、聞いてないよ。
もちろん、蜂野先生はそんな僕の疑問は当然のように完全スルー。笑顔でばあちゃんの質問に答える。
「あけみさんですか~? はーいはい、演歌の大御所になりましたぁ~。これからみなさんで迎えに行きましょ」
そこにまた流れる前奏。四人目の演歌歌手登場。