13 女王蜂様 演歌部門も設立する
「ぷっ、くくっ」
何か紗季未笑ってるし
「何笑ってるの?」
「あははは、だって、だってぇ」
「?」
「こうちゃん。絶対、何かのゲームキャラになるよ」
うーん。さすがは紗季未、そう言われちゃうと返す言葉もないわ。
「じゃあさ、紗季未は自分が何になると思うの?」
「うーん」
何やら考えこんじゃっているし
「わたしはね……」
「うん」
「本当に分からないんだ。自分が何になるのか」
「え? 何も思い当たらない? なりたいものとかないの?」
「うん。何かね、今の自分にすごく満足しちゃってる感じなんだ」
「そうなんだ」
「ほら。わたしの家、弟がずっと病弱で大変だったでしょう。それが、すっかり丈夫になって、お父さん、お母さん、弟、みんなスペインにいて、離れて暮らしてるけど、元気そうだし。あの頃から考えると、本当に幸せだと思う」
そう言われれば、そうだけど、紗季未は本当にそれでいいの? もっと、自分が何をやりたいか考えてやってもいいんじゃないかな?
僕はそう思ったけど、言えなかった。
だって、それを言った時の紗季未の顔は本当に穏やかな笑顔だったから……
気まずくはないけど、何となく沈黙が続いて、僕たちはしばらく黙って歩いた。
その時間は本当に気まずくなくて、むしろ、心地よかったんだ。
だけど、そんな時間は長くは続かなかった。
よりによって、僕の家から大音量の演歌の歌声が響いてきたからだ。
しかも、とどめを刺すかのような声をかけられた。
「あら、あなたたち、この辺に住んでるの?」
◇◇◇
「はっ、ははは、蜂野先生。何でここに? 大体、今、定時後の時間外じゃないですか」
「やーねぇ。ちゃんと時間外手当もらうわよ。協定以上の時間外はやんないわよ」
「学校の先生をかたっぱしからアイドルに変身させてるのに、そっちは守るんですね」
「だから、言ってるでしょ。あたしは『働き方改革』断行するんだって」
「それで、時間外に何をしてるんですか?」
「あー、男女とも若手アイドルグループが出来たから、今度は演歌部門を作るの。で、こちらのお二人」
蜂野先生が指差した先に中年男性二人。
「こんばんわ、凝品一です」
「♪おこさまーはなたれー、位置来ピロチです」
「そして、こちらのお宅に蛍川かかしさんがいらっしゃる訳ー」
と、蜂野先生が指差した家は……
やっぱり、僕の家じゃないかー(泣)