129(最終回) 女王蜂様 は永遠にwww
ギギギギギギーイ
トラックは大きなブレーキ音と共に止まった。
僕はすぐに周りを見回す。
大丈夫だ。轢かれた人は誰もいない。
紗季未も無事だ。良かった。
だけど、誰だ? こんな乱暴な運転をするのは?
僕は思わずトラックの運転席を見る。すると……
「ごめんねん。驚かせたわねん。でも、絶対、轢いたり、ぶつけない安全の魔法がかかってるから大丈夫よん」
はっ、はっ、はっ、蜂野先生っ! 運転席にいたのはねじり鉢巻きをした蜂野先生だった。
「なんでここに先生が?」
「いやっはっは、忘れ物を取りに来たのよん。ほらあれ」
蜂野先生が指差した先にはオオスズメバチが焼酎漬けになっている寸胴が。
そう言えば「分封」騒ぎで忘れてたなあ。隅っこに置きっぱなしになってたよ。
「ほらほら、ボーッとしてないで、とっとと寸胴を荷台に積込んでっ! 使えないわねん。新川君」
はいはい。ついさっきまで感傷に浸っていた面々はみな寸胴の積込作業に動員させられた。
「それにしても先生。派手なデコトラで来ましたねー。何ですか、この『御意見無用。一番蜂』って、それに『中鳥島』につながる穴はもう塞がったんじゃあ。あ、また、でかい穴が開いてる」
「あ、穴ーっ? そんなもんは開け閉め自由よん。北原さんが持ってる蜂の針振れば、蜂幡市側からも開けられるわよん」
なっ…… あまりの衝撃に紗季未は呆然としている。そりゃそうだよねー。今までの感傷は何だったのっ?
「ほんじゃ中鳥島に帰るわよん。じゃあねえん」
グオオオオオオン
蜂野先生はトラックのエンジンをかけると共に音楽を大音量で流した。
「♪女蜂一匹トラックに懸けて あーあ、あーあ、一番蜂ぃ~」
蜂野先生が運転するトラックが中鳥島に戻り、それと共に大きな穴がふさがった後、僕と紗季未は顔を見合わせた。
そして、紗季未は蜂の針を一振り。
空間に大きな穴が開き、中鳥島側には蜂野先生の乗ったトラックがバッチリ見えた。
蜂野先生、トラックのマイクに向かって大音量で一言。
「いやーん。新川君のむっつりえっち~」
僕は九月の澄み切った高く青い空に向かって叫んだ。
「何だってんだよっ! もうっ!」
「異世界から来た女王蜂様は働き方改革を断行します」
おしまい