126 女王蜂様 ご先代様 睡魔と戦う気なし
紗季未が蜂野先生を監視していることに安心しているのだか、それとも、元より気にしていないのだか分からないけど、三俣はどんどん「分封組」を誘導していく。
次は「ドラゴン酒造」の一部メンバーだ。
仲間との別れを惜しみながらも、「ヤシの実なんかもあるみたいだぞ。果実酒なんかもいいよなー」とか話している。
そして、いよいよ「ドラゴンコンクエスト」のメンバーたちだ。僕とは特に親交が深かっただけに名残惜しい。
「なあ、新川。やっぱり中鳥島に来る気ないのか?」
「やっぱさあ、メンバーに錬金術士がいると心強いんだけどなあ」
勇者の伊藤と武闘家の鈴木は最後まで声をかけてくれる。
自分のなりたかった錬金術士になれて、しかも人に強く誘ってもらえる。以前の僕では考えられなかったことだ。ありがたい話だよ。でも……
「ふっふっふ、分かってるよ。紗季未ちゃんと一緒にいたいんだよね」
「まったく妬けるんだから。このリア充」
その通りです。魔法使いの田中さんと僧侶の中村さん。
やっぱこういうのは女の子の方が分かってらっしゃる。
「分かった。じゃあ、どのくらい先になるか分からないけど、絶対、また会おうな。新川に北原。最後にもう一度俺たちと握手してくれ」
勇者の伊藤の言葉に、僕も紗季未も握手で応える。
別れは惜しいが、やっぱりこいつらも楽しそうだ。うらやましいけど、僕は蜂幡市に残る。
あっ、レール娘の京太朗兄ちゃんが手を振ってくれている。
僕も振り返した。実感が湧いて来た。本当に「分封」やってるんだなって、あれ?
「先生っ! また寝てましたねっ?」
「やあねえ。起きてるわよん。北原さん。ぐおーっ、すーぴー」
「先生っ! 寝てましたねっ!」
「起きてるわよん。すーぴー」
「先生っ! 寝てるじゃないですかっ!」
「しっつれいねん。起きて……ぐおおおおお」
「分封」は確かにやっている。でも、無事に終わるのかなあ?
◇◇◇
時刻は午後五時を回った。
「分封」される者はみんな中鳥島に行った。二名を除いて。
中鳥島に行っていない二名。それすなわち、蜂野先生とその助手三俣。
「先生。他は全員が中鳥島に行きました。私たちも行きましょう」
「ぐおおおおおお。すぴー」
うーん。熟睡状態。さすがは蜂野先生。軌道エレベーターもぶら下げられるような強靭な神経してますな。
紗季未は新しいビール瓶を二本持ってくると一本を三俣に渡すと頷き合う。
「おはようございますっ! 蜂野先生っ!」
「おはようございますっ! 蜂野先生っ!」
「今日は絶好の『分封』日和ですっ! もう夕方だけどっ!」
「中鳥島に行ったメンバーはもう太陽光パネルの設置を始めてますっ!」
「女王蜂様としての自覚を持って下さいっ!」
「もう、釣りを始めてるメンバーもいますっ!」
また、ビールかけかいっ。まあ、これが一番有効なのかも。あっ、蜂野先生が目を開けたっ!
「ふっ、ふあああああ~っ、おはようっ、眼鏡っ娘ちゃん」
「おはようございます。蜂野先生。もう夕方の五時過ぎですが。とにかくお迎えにあがりました」
「あ、そうなのん。大儀ねん。で、どこ連れて行ってくれるのん? 居酒屋? バー? スナック?」
三俣は大きく前方につんのめった。頑張れっ! 三俣っ! これでめげていては蜂野先生の助手はつとまらんぞっ!




