123 女王蜂様 二度目の新旧対決
紗季未は「オオスズメバチ」が浸かった寸胴から一杯の「焼酎」をお椀に掬い取って来た。
そして、それを蜂野先生の鼻先50cmの所に持って行くと団扇で扇ぎだしたのである。
「ほーらほらほら、蜂野先生。『焼酎』ですよー」
鼻をヒクヒクさせる蜂野先生。まるでウサギです。絶対、この方、自分が「蜂」であることにプライド持ってませんね。
紗季未は団扇を扇ぎながら、ゆっくりと後ずさり。
すると何と、蜂野先生は立ち上がってついてくる!
紗季未、後ずさりしながら一言。
「蜂野先生ーっ、この『焼酎』飲みたいですかー」
蜂野先生、眼を閉じたまま頷いているし、何なのこの女王蜂様たち。
「蜂野先生ーっ、この『焼酎』飲んだら、起きてくださいねー。起きられますかー?」
またも眼を閉じたまま頷く蜂野先生。
「じゃあはい、飲んでください。飲んだら起きてください」
紗季未の持ったお椀にそのまま口をつけて飲む蜂野先生。
「はあい飲み終わりましたー。では起きてくださいーって、えっ?」
何と蜂野先生。「焼酎」を飲み終わると、そのまま後ずさりして、元の長椅子に仰向けに倒れ、そのまま高鼾。
愕然とする観衆。しかし、紗季未はめげなかった。
「そうですか。そこまでやりますか。これはもうご先代様から現女王蜂の私に対する挑戦状と受け止めました。こうなったら徹底的にやらせていただきます」
紗季未、またキャラ変わってない? それとも女王蜂様ってもともとそういうものなの?
◇◇◇
「もしもし、疲労子さん。ビールをケース単位でありったけ持って来てっ! え? 蜂野先生が片っ端から飲んじゃったから五ケースくらいしかない? 構わないからありったけ持って来てくださいっ!」
……
「毎度―」
すっかり学校への「酒」の配達が板についた疲労子さんがすぐにビールケースを盛って来る。
「まさか北原さんが飲むんじゃないよね。いくら女王蜂様でも未成年だよ」
疲労子さんの問いに紗季未は輝かんばかりの笑顔で首を振る。
「まさかあ、『ビール』は私から蜂野先生へのプレゼントですよ」
うーむ。何か怖いぞ。
「さあて」
紗季未は笑顔のまま観衆に向き直る。
「開始が大分遅れてしまっていますが、今日は大切な『分封』の日。寂しい気持ちもありますが、栄えある門出、お祝いの日なんです。このおめでたい日を『ビールかけ』で祝いましょう。主役はもちろん『分封』の主催者蜂野先生です。主役に思い切りビールをかけましょう」
呆然として聞いている観衆。でも、紗季未が蜂の針を一振りすれば……
オオーッ
たちまち沸き起こる大歓声。
「『分封』おめでとう!」
「『分封』おめでとう!」
「『分封』おめでとう!」
「オリックスバファローズ2022日本シリーズ優勝おめでとう!」
「横浜F・マリノス2022J1優勝おめでとう!」
「ジェラルディーナエリザベス女王杯優勝おめでとう!」
「土屋太鳳さん、片寄涼太さん結婚おめでとう!」
「北原紗季未さん、女王蜂様就任おめでとう!」
「『異世界から来た女王蜂様は働き方改革を断行します』第123回おめでとう!」
何かお祝いの文言がどんどん「分封」からずれてきているような気もするけど、蜂野先生にビールをかけるのが主目的なので問題ないらしい。
ビールかけられ放題だった蜂野先生だけど、やがてすっくと立ちあがり、両眼を開いた!




