122 女王蜂様 新しい方は不敵に笑う
三俣あー。なんつーキラキラした瞳で真っ直ぐこっちの目を見つめてくれるんだー。
そんなことされたら心が動く。いや、動かないわけがないじゃないかっ!
だけど……
確かに中鳥島での生活は思ったより不自由はなさそうだし、絶対に錬金術の技能が上がるような発見もあるだろうね。そして、何より……
「ヘタレDT」を十六年以上やってきたこの僕に、女の子からの勇気あるお誘いを断るのはキツイ。しかも、二回目の勇気あるお誘い。「もったいないお化け」が出そうだ。
だけど……
「ごめん。誘ってもらったのは凄く嬉しいけど」
「…… そう」
それだけ言うと三俣はプイと横を向いた。
何と言っていいんだろう。と言うか神様。この僕に十五年以上も「モテない」「モテてー」「モテない」「モテてー」と言わせておいて、何で来る時は二ついっぺんに寄越すんですかっ!
「そう。あと五年十年もしたら……」
「?」
「三俣は間違いなく世界一の生物化学者になる。ノーベル賞を受賞するほどの…… そうなってから後悔しても遅いんだよ」
「そうだね。きっとそうなる。そして、僕はきっと何度も後悔するんだろうな」
「バーカ。そういうところが狡いんだよっ!」
三俣は最後にそう言うと走り去っていった。
……
呆然として立ちすくむ僕のところにゆっくりと紗季未が歩いてきて言った。
「こうちゃん、ありがとう」
紗季未の方を振り向いた僕の耳に大きな音が響いて来た。
ブオオオオオオオーッ オオオオオオーッ
正午の……サイレンだ……
◇◇◇
僕と紗季未は顔を見合わせてから、ゆっくりと蜂野先生の方を見た。
「グオオオオオオーッ ピッ」
相も変わらず一升瓶抱いて爆睡状態。うーむ。
紗季未はその場で蜂野先生に声をかける。
「先生ーっ、蜂野先生ーっ、起きて下さい。正午ですよ。『分封』の時間ですよー」
「グオオオオオオーッ ピッ」
一向に起きないぞ。
紗季未は小走りに蜂野先生のところに駆け寄り、もう一度声をかける。
「先生ーっ、蜂野先生ーっ、起きて下さいー」
「グオオオオオオーッ ピッ」
うっ、うーむ。
紗季未はついに蜂野先生の耳たぶを引っ張り、耳に向かって直接言う。
「先生ーっ、起きてーっ」
「グオオオオオオーッ ピッ」
さすがに「分封」についていくつもりだった連中は青ざめてきた。
仮にも十万字を大きく超えた作品のクライマックスを酔っ払って寝過ごすメインヒロインって他にいるんだろうか?
◇◇◇
「そうですか。それなら私にも考えがありますとも」
不敵に笑う紗季未。何だか怖いぞ。