121 女王蜂様 ご先代様 「分封」一時間前に爆睡状態
僕と紗季未は談笑しながら、学校に向かって歩いて行った。
何だか不思議な気分。ここ数日の大騒ぎは夢だったんじゃないか。
そんな感じもした。
◇◇◇
だけど、そんな思いはあっという間に打ち砕かれた。
たどり着いた学校の校庭で見たものは……
何やらいろいろな資材らしきものが積まれている三台のトラック。
その周りでは多くの人たちがリヤカーを引いて談笑している光景。
引っ越すための荷物を積んでるんだろうね。
僕は「分封」が現実であることを嫌と言うほど思い知らされたんだ。
「凄い…… 本当に『分封』するんだ……」
そう言った紗季未の顔も緊張気味だ。
「新川……」
後ろから声をかけられ、僕は振り向いた。
◇◇◇
そこには笑顔の「ドラゴンコンクエストパーティー」の勇者の伊藤だった。武闘家の鈴木、魔法使いの田中さん、僧侶の中村さんも一緒にいる。みんな笑顔だ。
「俺たちみんな蜂野先生に着いていくことにしたよ」
「そうか。未開拓の島での生活は初めは大変だろうが、頑張れ。応援してるぞ」
「新川。それがそうでもないんだよ」
「へ? どういうこと?」
「このトラックの荷台見てみ」
「うーん。何やらパネルみたいなものがたくさんあるぞ」
「太陽光パネルだよ。それも最新鋭の変換効率30%ってやつ」
「え?」
「それだけじゃないぞ。一緒に積んであるでかいタンクは海水の真水化装置」
「え? え?」
「こっちのトラックに積まれてるのはプレハブ住宅の資材。しかも全部トイレ、シャワールーム付き」
「え? え? え? いやいやいや、でもさー、いくら資材があっても作れる人間がいるのか―?」
「呼んだかー? 新川ーっ!」
どいつもこいつもいい笑顔で現れやがって、蜂幡高専行った奴らだな。
「電気工学科に土木工学科、機械工学科もいるぞ。いやもうみんな大張り切りよー」
「むっ、むむむっ、何かちょっとうらやましくなってきたかも。いや、ちょっと待てよ。まさか一連の段取りを蜂野先生がしたのか?」
「いや、それはない。あれ見てみ」
勇者の伊藤が指差した先には一升瓶を抱えて爆睡する蜂野先生の姿が。
本当にすがすがしいほどブレないね。
「今朝がた酔っ払って帰って来て、迎え酒だって言って一升瓶ラッパ飲みしてからずっと寝てる。もう十一時だけど『分封』予定時刻の正午までに起きるのかなあ?」
本当に「分封」出来るのか? ここまで来て出来ないというオチはないと思うが……
◇◇◇
「恒太朗」
そして、この可愛らしい声は……
振り向くとやっぱりレール娘に変身した京太朗兄ちゃんだった。
「やっぱり僕は中鳥島に行くことにしたよ」
「え? 兄ちゃん。蜂幡市に銀河鉄道走らせたばっかりなのに」
「そっちは同じ夢を持った奴らが引き継いでくれる。僕は中鳥島からハワイに銀河鉄道を走らせるんだ。そして、その後は……」
「その後は?」
「中鳥島から蜂幡市に銀河鉄道を走らせるんだ」
「兄ちゃん、凄すぎだよ」
「多分それが開通するまで会えないと思う。元気でね。恒太朗。恒太朗も自分の夢を追いかけて。そうだ。握手してよ」
兄ちゃんと握手したら、涙がにじんできて、よく前が見えなくなった。生まれた時からずっと一緒だった兄ちゃんとしばらく会えなくなるんだ。
「京太朗さん。私とも握手してください」
兄ちゃんは紗季未とも握手した。
「紗季未ちゃん。恒太朗をよろしくね」
紗季未も涙ぐんでいた。
◇◇◇
「はあっ、はあっ、にっ、新川君」
僕が京太朗兄ちゃんと別れを告げた後、駆け込んで来たのは……三俣だ。
「ねえねえ、さっき伊藤君たちと話してたでしょ?」
「うん。そうだけど」
「中鳥島に行っても、思ったより不自由はなさそうで、楽しそうだと思わなかった?」
「うんまあ。少しはね」
「ねえねえ。私と一緒に中鳥島に行かない? きっと新しい発見があって、錬金術の技能も上がるし、きっとすっごく楽しいよ」