120 女王蜂様 あまり出番なし 思春期新川君 ぐーるぐる
「とにかく今日はもう遅いし、二人とも寝なさい。昨夜は『オオスズメバチ』対策でろくに寝てないでしょ? めきみちゃんに付いて行くか、蜂幡市に残るかは個人個人が決めることで、二人が心配してどうなるもんでもないよ」
「母さん。蜂野先生がいないと「本当に」普通の母親ですね。顔は十八歳だけど」
「妙なツッコミ入れてないでないで寝なさい。おやすみ。二人とも」
何なの? この真面目ぶり。レオタード着て、リボン振ったノリはどこに行ったのだ?
◇◇◇
普通にベッドに入り、普通に寝る。
これが九月に入って五日目で初めてというのも驚きなんだけど。
やっぱり気になる。周りの人たち、どのくらい蜂野先生について行くんだろう。
中部太平洋の絶海の孤島ともなると、もうそんなには会えなくなるよなあ。
ずっと一緒だった京太朗兄ちゃんとも会えなくなるのかなあ。
つい最近知り合ったばっかりだけど、もう何年も一緒にいるみたいな蜂野先生とも会えな……
…… ……
…… ……
…… ……
いやっ、いやいや
僕は大きく頭を振った。
僕は蜂野先生のことなんか何とも思ってないのっ!
この四日間だけでどれだけ蜂野先生に振り回されて、迷惑をこうむったんだよっ!
大体、僕には紗季未がいるんですっ! 蜂野先生が入る余地なんかひとっかけらもありませんっ! はいっ!
はあっ、一体、僕は誰に向かって、何を言ってるんだ……
当の蜂野先生は僕がこんなことでうだうだ悩んでるだなんて思いもしないんだろうなあ。
だっ、だっ、だからっ! 僕は蜂野先生とは何の関係もないのっ!
中部太平洋の絶海の孤島だろうが、サハラ砂漠のど真ん中だろうが、好きなところに行けばいいんだよっ!
サハラ砂漠のど真ん中でも、もう会えなくなっちゃいそうだなあ……
だっ、だっ、だからっ!
◇◇◇
僕の頭の中はぐるぐるぐるぐるで、一向に寝つかれなかった。
こういう経験がある人にはよく分かるかもだけど、夜明け前になって、ようやく寝られたりする。
でも、こういう時は……
…… ……
…… ……
…… ……
「こうちゃん。そろそろ起きてくれないかな」
◇◇◇
瞼を開いた僕の目の前にいたのは、制服の上にエプロンを纏った紗季未だった。
うほっと思った。
寝不足という感じはしない。寝付けなかったけど、寝入ってからはよく眠れたみたいだ。今、何時かな?
「もうそろそろ十時かな」
「えっ? そんなに寝てたの?」
「あ、まずかった? よく寝てたから起こしにくくて、ご飯できてるよ」
「あ、いや、まずいということはないけど。母さんたちは?」
「蜂幡FCの人の中で、蜂野先生について行く人たちの引っ越しの手伝いのために、もう学校に行ったよ」
「えっ? 僕も手伝わないとまずいかな?」
「母さんたちだけで大丈夫だって。それに今の蜂幡市の女王蜂の私が早めに行くのは良くないだろうし」
「そうかあ」
「でも、そろそろ行かないと正午の出発の見送りに間に合わないし」
「そうだね。でも、いよいよ出発かあ。誰がついて行くんだろう?」
ついて行く人たちとは会えなくなるんだなあ。蜂野先生とも。
だっ、だっ、だからっ! 蜂野先生は関係ないのっ! ホントにっ!