119 女王蜂様 ご先代様はフリーダム
それから僕と紗季未はいろいろな話をしながら、家に帰った。時刻は0時を回っていた。
だけど、どこの家も電気が点いたままだ。みんな、蜂野先生についていくか、蜂幡市に残るか迷っているみたいだ。
「ただいまー」
「ああっ、おかえりー」
家に帰った僕と紗季未に母さんが声をかける。顔だけは十八歳になっているけど、やってることは前のままだ。でもなんだろう。何かが足りないような……
「あ、こうちゃん。めきみちゃんなら家にいないよ」
「そうか。ここんところ家にいると何か蜂野先生に引っ掻き回されていたけど、それがないのか」
「何? こうちゃん。めきみちゃんのことが気になるの?」
ギラーン
紗季未の視線が一挙にきつくなる。母さん、やめてよ。そのツッコミ。
「ふふっ、でもまあ、めきみちゃんのことだから、どっかで遊んでるか、明日の出発の準備をしてるか、どっかで遊んでるか、分封先の下調べをしているか、どっかで遊んでるか、どっかで遊んでるかだよね」
母さん、それは母さんも蜂野先生はどっかで遊んでると思ってるんですね。
「あ、そうだ。紗季未ちゃん」
「はい」
おや、話題が変わるのかな?
「母さんも蜂幡FC監督も蜂幡市に残るよ。蜂幡FCに紗季未ちゃんの弟のたっくんを呼び戻す約束がまだ果たせてないからね」
「あ……」
紗季未はちょっとだけ絶句して続けた。
「ありがとうございます」
あ、紗季未、涙ぐんでる。考えてみればまだ誰からも紗季未と一緒に蜂幡市に残ると言われてなかったもんな。
と言うか、それは僕が最初に言わなきゃならなかったんだ。くそっ、先に言われた。
「蛍川かかしも蜂幡市に残るって。将来のことはともかく。今はまだ演歌に人気のある日本でやっていきたいって」
「なんだ。すると、うちの家族もみんな蜂幡市に残るし、なんやかやでみんな残るのかな。蜂野先生、前回も一人で分封したって言ってたし」
「それがそうでもないんだよ。少なくともお兄ちゃんは凄く迷ってる」
「え? だって京太朗兄ちゃんはレールむすめになって、蜂幡市に銀河鉄道を開通させたばかりじゃない。何で蜂野先生について行くの?」
「中鳥島にも銀河鉄道走らせたい気もしてるんだって」
「何でまたあんな絶海の孤島に鉄道を?」
「鉄道ったって、空飛ぶもんね。何でも中鳥島とハワイを繋ぐ路線を作れたら楽しそうだって」
「今更だけど無茶苦茶だなあ。鉄道なんだか航空路線だか分からないよ。でも、何とかなっちゃうような気もするけど」
「それに蜂幡FCの子だって、全員が残りたいって言ってる訳でもないんだよ」
「何でまたサッカー選手があんな絶海の孤島に?」
「めきみちゃんが見せた中鳥島の写真見て、漁師やってみたくなったって」
「え? だって既にサッカー選手に変身してるじゃない。また変身するとか出来るの?」
「めきみちゃんが言うには『やってみたいことが変わることがあるのは当然じゃん』だって」
うーん。フリーダムだなあ。蜂野先生についていく人の気持ちが分からないでもない。