118 女王蜂様 新しい方は呟く
「ほんじゃあたしはこの辺でドロンするでござるよん。また、明日ねん」
蜂野先生が両手を忍者みたいに組むと本当に煙と共に消えちゃった。
一瞬、ワーッという声が起こったけど、すぐにざわめきに変わった。
すぐ後ろでは蜂幡市で寿司握りバトルリーグ戦を開催していた四つの回転寿司店、スシタロー、蔵之介寿司、浜ちゃん寿司、KP寿司が早くも話を始めている。
「おい、どうする?」
「寿司握りバトルリーグ戦。盛り上がってるしなあ。蜂幡市を離れるのは惜しいよな」
「だっ、だけどさ……」
「?」
「分封する先が中部太平洋の孤島というのに惹かれてるんだ。何か面白い食材が手に入りそうじゃないか」
一人が言いだしたことに全員が頷く。
「それは言えるな」
「でも、港とか漁船とか冷蔵庫とか何もないんだぞ。大丈夫なのか?」
「いや、それでも……」
「「「蜂野先生なら何とかしちゃうんじゃないのか」」」
うーん……
◇◇◇
かと思えば、「ドラゴンコンクエスト」のパーティーメンバーは……
「未開拓の島って魅力的だよな」
「どんな新しいモンスターがいるかと思うとワクワクするよね。友好的なのもいるだろうし」
「でも、家も商店も何もないんだぞ。大丈夫なのか?」
「いや、それでも……」
「「「蜂野先生なら何とかしちゃうんじゃないの」」」
うーん。こっちもか……
◇◇◇
不意に後ろから袖を引かれる。振り返ると紗季未だ。
「こうちゃん。一緒に帰ろ」
うっ、うん。でも、いいのかな? この場を離れて。
「うん。いいんだよ。この場に女王蜂様の私がいたら、みんながやりたいことを考えるのに影響も出ちゃう。だから帰った方がいいんだよ。蜂野先生が姿を消したのも同じ理由なの」
そうなのか。二人の女王蜂様がそう言うのならそうなんだろうな。
◇◇◇
紗季未は優しい笑顔を見せてくれた。
「こうやって二人だけで帰るの久しぶりだね」
「そうだね。ここんとこずっと蜂野先生がいたからなあ」
「でも、もう明日のお昼で蜂野先生もいなくなっちゃうんだよ」
「! そうかあ。何か寂しいようなホッとするような」
「ふううううーっ」
ここで紗季未は大きな溜息。どっ、どうしたの?
「いや、何かね。みんな、選択を迫られてはいるけど、選ぶことは出来るじゃない」
「!?」
「私はもう蜂幡市の女王蜂様だから蜂幡市を離れる選択肢はない。何か寂しい気がしてね」
「そうだね。でも……」
「おっと」
眠くなったのか紗季未の左肩に座っていた恒未がよろける。
紗季未は手慣れた様子で蜂の針を振ると「抱っこひも」が現れ、恒未を中に収める。もう、すっかり「女王蜂様」が板についてるなあ。
「恒未が一人前になるまでは頑張らないとね。あ、嫌なんじゃないよ。むしろ凄いやりがいはあるんだ。みんながやりたいことやって幸せになるって、素敵じゃん」
うーん。自分で悩みを解決したね。「僕はずっと紗季未と一緒だから」と言うタイミングを完全に逸したなー。