116 女王蜂様 ご先代様 いきなりのライブコンサート
不意に辺りの照明が一斉に消えた。
起きるどよめき。
カッ
音と共に舞台にだけ当たるスポットライト。「のぼり坂くだり坂ま坂46」「辛」「ジ・エンカーズ」がライブをやっていた舞台だ。
♪じゃじゃじゃじゃーん じゃじゃーん
インパクトのあるBGMが流れ、空中からワイヤーに吊るされた蜂野先生が降りてくる。
その扮装たるや手を広げると扇状に広がるスクリーンドレス。
何だ何だ、紅白の小林〇子かジュディ〇ングか。
「オーホッホッホッ」
空中で翼のようにスクリーンドレスをバタバタさせる蜂野先生。
「オーホッホッホッ、あたしは蝶ーっ!」
いやあなた蜂でしょう。
◇◇◇
いつしかどよめきは歓声に変わって行った。
「かっこいいーっ! 先生ーっ!」
「素敵ーっ!」
「めきみちゃ~んっ!」
うーん。蜂野先生が赴任してきた時の始業式みたいになってきた。
舞台の上に着いた蜂野先生はそそくさとハーネスを外し、マイクを持って一言。
「みんなーっ! 今日はあたしのライブに来てくれてっ! ありがとうー!」
オオーッ キャーッ
盛り上がる観客たち。と言うか何で蜂野先生のライブになってんの? 紗季未との思わせぶりな会話、ありゃ何だったの?
「じゃあ、まずは一曲目っ! 『なんてったって女王蜂』っ! 続けて、『上からメキミ』っ! ぶっ続けで行っちゃうよーっ!」
オオーッ
みんな大盛り上がり。僕も楽しくなってきた。でも、紗季未は浮かない顔。どうしたの?
僕の言葉に紗季未はちょっと下を向き、大きく首を振ってから答えた。
「そうだよね。これが蜂野先生の流儀。しんみりなんて性に合わないんでしょうね。こうなったら私も徹底的に楽しんでやるわ」
紗季未はおもむろに立ち上がり、音楽に合わせて蜂の針を振り出した。
うーんと思ったが、僕も乗って楽しむことにしたんだ。不思議とそれが絶対に正解だという確信があったから。
◇◇◇
時刻は既に午後十時を迎えようとしていた。
「楽しい時は過ぎるのが早いねーっ! もう、ラストソングの時間だーっ!」
ええーっ? もうっ?
蜂野先生の言葉に残念そうな観客たちの声。
「まあまあ、ラストソング盛り上がって行くよーっ! 『BUNPOU』っ! ミュージックッ! スタートッ!」
え? 「BUNPOU」? それって?
僕は思わず紗季未の顔を見る。紗季未は静かに頷いた。
「遂にこの時が来ちゃったんだよ。新しい女王蜂が生まれたら、先代の女王蜂は新しい縄張りを広げに外に出る。それで種族は繫栄する。これは生き物としての宿命で、蜂野先生の最終目的もそうなの。まあ、こんなやり方でそれをみんなに伝えるのは蜂野先生だけだけどね」
「BUNPOU」は前奏を終え、蜂野先生の歌が始まろうとしていた。