113 女王蜂様 ご先代様 涼みたがる
「オオスズメバチ」が上空にいるうちに撃墜できるのはM1エイブラムスの44口径120mm滑腔砲と三人の大暴れ大将軍の放つ「魔法の矢」だけだ。
そこで撃墜出来なかった多くの「オオスズメバチ」は急降下してきて攻撃し、僕たちにダメージを加える。
「オオスズメバチ」の顎を使った打撃は重い。こっちも杖を使って反撃を試みるけど、受け止めるのが精いっぱい。だけど、防がないと強力な針を使った攻撃が来る。
苦戦しているのは僕だけじゃあない。急遽戦闘要員に回った「農場物語」の女の子たちもだ。彼女たちが持っている鍬はもともと武器じゃない。
そして、回復要員だった彼女たちも戦闘要員に回ったから「回復」は「のぼり坂くだり坂ま坂46」「辛」「ジ・エンカーズ」の合唱の力しかないけど、ちょっと足りない。
でも、何とか援軍が来るまで持ちこたえないと……
◇◇◇
ぱあああああー
僕の右手で不意に明るい光が差し込んだ。それと共に「オース」「オース」という声が聞こえて来た。なんだなんだ?
「ちょっとお、ダラちゃ~んっ! せっかく涼んでいたのに、『どこへでも行けるドアー アトランダム』の開け閉めやめちゃだめじゃないー」
響き渡る蜂野先生の声。
「だって、先生~」
弁解しているダラえもん。
そちらを見ると、「どこへでも行けるドアー アトランダム」から母さんを先頭に蜂幡FCのメンバーが駆け込んで来た。
やったっ! ダラえもんが何回も開け閉めしてくれて、「どこへでも行けるドアー アトランダム」がサッカースタジアムにつながったんだっ!
「母さん」
母さんを見つめる紗季未の目からは涙がこぼれた。
「紗季未ちゃん、頑張ったね。さあっ、もともと戦闘要員でなかった子は引き上げてっ! うちのチームが『オオスズメバチ』どもをぶちのめしてやるからねっ!」
母さんの勇ましい呼びかけに、もともと戦闘要員ではない僕もあわてて引き上がる。
「おりゃー」「だりゃー」
蜂幡FCのメンバーはサッカーボール化した「爆薬」を次々「オオスズメバチ」に向かって蹴って行く。
おおっと、ぼうっと見ている場合じゃないよ。こうなった以上、僕はどんどんサッカーボール化した「爆薬」を調合しないと。
ふと見ると蜂幡FC監督の父さんが「どこへでも行けるドアー アトランダム」の向こうからどんどん使い切れなかったサッカーボール化した「爆薬」をこっちに運び込んでいる。
更に見ると蜂幡FCマネージャーの母さんが腕組をして、選手たちのキックぶりを見ている。
どっちが監督でマネージャーか分からないね。
◇◇◇
ぱあああああー
二回目の明るい光は一回目からそう時間がかからなかった。
「だから、ダラちゃ~んっ! 開け閉めやめるなって言ってるでしょ~」
「先生~。僕は先生を涼ませるために開け閉めてるんじゃないんだよ~」
蜂野先生の言葉をよそに今度はプロ野球チーム「蜂幡クインビーズ」の選手たちが「ファイトー」「ファイトー」の掛け声と共に乗り込んでくる。
やったなー。ダラえもん。野球スタジアムともつなげたか。いいぞっ、これで勝てるっ!
◇◇◇
「あ、あのー、助手さん?」
え? あ? 「助手」って僕のことか。
「何ですか? 野球選手のみなさん」
「このバットに魔法の力を加えてもらえませんか。それで『オオスズメバチ』を倒せると聞いたんです」
僕と三俣に飛得先輩は大きく頷き合う。
「分かりましたっ! お任せくださいっ!」
野球選手の人たちも笑顔になる。
ふと見ると、ビーチパラソルの下でサングラスをして、細長いチェアに横たわる蜂野先生をダラえもんが大きな団扇で扇いでいる。
すまん。ダラえもん。終盤戦のMVPは間違いなく君だ。まるで報われてないが。