112 女王蜂様 は戦わない
「あれ? えーと」
うん。紗季未も気が付いたね。
つまり、「蜂幡プロレス」の面々は格闘で大活躍なのだけど、敵にとどめを刺せないのだね。
ジャーマンスープレックスとかバックドロップとかかますのだけど、フォール取って終わり。
「プロレスはルールがあるケンカである」という力道山先生のお言葉が生きて……いでででで 紗季未、耳引っ張んないで。
「こうちゃん。それが分かってるんなら、早く言わなきゃ駄目でしょ」
おっしゃる通りで。「蜂幡プロレス」の面々には相手にダメージを与えることに専念してもらい、とどめは猿渡君の如意棒、「ドラゴンコンクエストパーティー」の勇者の伊藤、武闘家の鈴木が刺して回る。魔法使いの田中さんにもとどめを刺す方に回ってもらった。
少しずつ「オオスズメバチ」の数を削れてはいるが、如何せん数が多い。こっちの累積疲労も「疲労回復薬」での対応が追い付くのが厳しくなっているし、勝負は膠着してきた。
◇◇◇
紗季未がピクリとして、蜂の針を振った。
空中に画面が現れ、母さんの顔が映る。
「母さん。そちらで何か変わったことは?」
「うん。それがね」
母さんの顔も真剣だ。
「サッカーと野球のスタジアムで四匹ずつ撃ち墜とした。全部で二十匹来たから、残り十二匹なんだけど、急に撤収を始めたの。どういうつもりかな?」
「やはりですか……」
紗季未の顔が曇って行く。どうしたの?
「『オオスズメバチ』は三か所に分けての攻撃が不利と見て、学校に攻撃を集中させるつもりみたい。こうちゃん、学校は後何匹残ってる?」
十匹墜としたから残りは二十匹だよ。
「合わせて三十二匹。最初の三十匹より多い。しかもこっちは結構疲れてきている。母さん。そちらのサッカー選手と野球選手。学校に回せますか?」
「出来ることは出来るけど、悔しいけど『オオスズメバチ』の方が飛べる分、かなり早そうね。こっちは走っていく分、遅くなる」
「その間『オオスズメバチ』にアドバンテージを取られますね」
紗季未の顔が更に曇る。
◇◇◇
「僕たちがトラックで迎えに行きますよ」
片葉兄弟に節藁野君が申し出る。
うん。その方法が一番いいね。
と僕も頷いた次の瞬間、三つの黒い影が僕らの横を突き抜けた。
しまった!
気付いた時には三匹の「オオスズメバチ」がその針を三台のトラックのタイヤに突き刺していた。それも四つとも。
ちくしょうっ、こいつら、こっちの言葉が分かるのかっ! 大急ぎで殺虫剤を持った三俣に飛得先輩が駆け付けたが、時既に遅し。逃げられたっ!
無残にタイヤはパンクさせられた。一部始終を画面越しに見ていた母さんは叫んだ。
「くそっ、でも、仕方ないっ! こっちのサッカー選手と野球選手には出来るだけ急がせるっ! その間、何とかしのいでっ!」
◇◇◇
紗季未はしばらく目を閉じて考え込んでいたが、やがて、意を決したように目を開いた。
「こうなったら、私自ら打って出るわ」
「駄目だって、紗季未。女王蜂様は最後まで出ないんだよ。蜂野先生を見て。酔っ払って、また寝てる。僕が打って出る。『錬金術師』だって、戦闘に出ることもあるんだよ」
「私たちも出るよ。武器が殺虫剤しかないから、追い払うことしか出来ないけど」
三俣に飛得先輩。
「農場物語」の女の子たちも鍬を持って来た。
「私たちもどこまで出来るか分からないけど。これで戦います。魔法力を添付してください」
「みんな、ありがとう」
紗季未は涙ぐんでいた。
◇◇◇
上空からカチカチ カチカチという音が聞こえた。
ちいっ、「オオスズメバチ」はもう援軍が来たのか。