109 女王蜂様 ご先代様 勇ましいことを言う
「いやー、思い切り飲ませてもらって、寝たら、お腹空いたのねん。で、疲労子ちゃんに牛乳ラーメンの出前を頼んだら、こんなに持って来ちゃってんの」
蜂野先生が指差した先には牛乳ラーメンが入った寸胴が四つも並んでいたんだ。
「疲労子ちゃん、しっつれいねん。あたしのこと何だと思ってるのん。寸胴四つも食べられる訳ないのねん。二つしか食べられないわよん」
はいはい。しかし、先生。それは疲労子さん責められないですよ。今までが今までなんだから。
かくて先生が食べ切れなかった寸胴二つから、取りあえずその時点で起きていた僕と三俣と飛得先輩。配送要員の片葉兄弟と節藁野君がごちそうになった。
当然、この六人で寸胴二つを食べ尽くすことなんか出来ないので、多少麺が伸びても起きてきた人に順次食べてもらうことにしよう。
それでも牛乳ラーメン! 最初に蜂野先生が間違えて味噌入れずに作ったやつじゃなくて、ちゃんと味噌が入っているやつは旨い。
体が温まったし、元気が出た。もうちょっと頑張ろうという気もしてきた。
まさかこのことは蜂野先生の気遣い? そんな訳がないか。
◇◇◇
今日は九月四日、時期的に朝五時には辺りは明るくなる。校舎内で仮眠をとっていた人たちも三々五々起き出してきて、牛乳ラーメンを食べて気合を入れている。紗季未はまだ起き出してこないな。様子を見に行ってくるか。
教室のドアをノックすると「どうぞ」との声。ゆっくりと扉を開けると、もう既に準備万端の紗季未が空中に浮かんだ画面を通じて、母さんと話をしていた。
「じゃあ、『オオスズメバチ』は午前八時に来るって言ってるのね」
「はい。何度か『オオスズメバチ』の思念を傍受しましたので、ほぼ間違いないかと」
「分かった。プロスポーツ選手がベストコンディションで実力を発揮するにはウォーミングアップが大事だからね。もう起こして準備させるよ。大丈夫。『爆薬』も『傷薬』と『疲労回復薬』も十分な数届いているしね。こっちは任せて」
「ありがとうございます」
母さんとの通話が終わると紗季未は僕の方を向いた。
「こうちゃん……」
「はい」
「正直、凄く怖い。『オオズズメバチ』に勝てなかったらどうしようと思うと不安でしょうがないの」
「うん。それはそうだよね」
「でも、私が不安な素振りを見せちゃいけない。みんな不安になっちゃう」
「うん。でも大丈夫だよ。みんな張り切ってるし、蜂野先生なんか勝算があるから『焼酎』をタンク買いしたんだよ。それに……」
「それに?」
「僕も頑張るから」
「うんっ!」
紗季未は笑顔で大きく頷いた。
「行くよっ! こうちゃん」
◇◇◇
「みなさん、おはようございますっ! よく寝られましたか? 徹夜の人はお疲れ様です」
おおっ、紗季未っ、凛々しいぞ。
「至急、こちらに集まってください」
みんな、ぞろぞろ集まってくる。中には牛乳ラーメン入りどんぶりを持ったまま来るのもいる。そう言えば、紗季未に牛乳ラーメン食べさせてなかったなあ。この後、食べてもらおう。
「『|オオスズメバチ』の思念を傍受したところ、こちらに来るのは今から約二時間後、午前八時です」
どよめきが上がる。
「数は二つのスタジアムに十匹ずつ。そして、学校には三十匹が来ます」
どよめきが大きくなる。
「大丈夫。勝てます。それだけの『魔法の道具』は用意されています。みなさん、一緒に頑張りましょう」
最後の言葉は笑顔だった。そして、大歓声が上がった。
◇◇◇
午前八時。その羽音は遠くからも聞こえた。来たっ!
「ふっふっふっ、『焼酎漬け』の原料が向こうから来てくれたわん。これでしばらく飲み放題ねん」
「やーい。バーカバーカ。『オオズズメバチ』のあんぽんたん」
先生っ、何を言ってもいいですが、僕の陰に隠れていうのやめてくださいよー。僕が言ってるみたいに見えるじゃないですかー。