108 女王蜂様 ご先代様 復活の牛乳ラーメン
しかし、僕は蜂野先生だけ見てる訳にはいかない。やることは山ほどある。さて、何から手を付けたものか。
なんて思ってると片葉兄弟に節藁野君がドラゴン社長に何やら話しているぞ。
「『オオスズメバチ』は学校の他に市内の二つのスタジアムも襲撃するようなんです」
「おう」
「だから、二つのスタジアムでも『爆薬』や『傷薬』や『疲労回復薬』を届けなければならないんです」
「おう」
「ハチロクやRX-7だとあまり積めないんです。このトラック三台お借り出来ませんか?」
「おおうっ!」
ドラゴン社長はまたも中空にブレスを吐いた。
「使えっ! どんどん使えっ! 自分の車だと思って遠慮なく使えっ!」
笑顔になる片葉兄弟に節藁野君。と見ている場合じゃないっつうの。トラックが使えるようになった以上、ますます僕はきっちり「爆薬」や「傷薬」や「疲労回復薬」調合せにゃならんのだ。
◇◇◇
ふぅー 流石にMPを使う。ポーションで回復出来るけど、あまり無駄遣いも出来ないしなと思っていたら……
「♪どうせ生っきるなら~ 楽しいほうがいいじゃないっ やぁなこと思うより~ 楽しいことを考えよぉ~」
あ、「のぼり坂くだり坂ま坂46」のヒット曲「ネガティブマインド ポイッ ポジテブマインド ゴー」だ。
「のぼり坂くだり坂ま坂46」だけじゃなく「辛」も一緒に合唱してる。ていうか「ジ・エンカーズ」までいるじゃない。
何だか力が湧いてくる気がする。紗季未が上手くやってくれたみたいだ。
しかしっ! この歌の力を最大限に生かすには背後に重低音で流れるグオオオオオ グワオオオという音をミュートする必要がある。
まあ、酔っ払って大いびきかいて寝ている蜂野先生なんだけどね。
◇◇◇
「でも、蜂野先生のことはともかく起きていなけりゃならない人以外は寝ててもらった方がいいんじゃない?」
三俣の提案に僕は頷いた。
その通りなのだ。もう時刻は午前二時だ。「錬金術」の調合をしなければならない僕たちは別として、明日の戦闘に備えて、みんなには寝てもらったほうがいい。
寝るよう呼びかけようと立ち上がった僕を紗季未が制した。
「待って。こうちゃん。私が言って回る。こうちゃんは『調合』を続けてて」
言うが早いか紗季未は駆け出し、僕は「ああ」と言うしかなかったんだ。
一時間後、起きてるのは僕に三俣に飛得先輩。配送要員の片葉兄弟に節藁野君。それに紗季未だけになった。他の人には校舎内で寝てもらっている。
ダラえもんも「どこへでも行けるドアー アトランダム」の開閉で疲れたみたいだし、「のぼり坂くだり坂ま坂46」に「辛」にジ・エンカーズも明日に備えて喉を休めてもらうことにした。
三俣は更に言ってくれた。
「北原さんも休んだ方がいいよ。明日も大変なんだし」
その言葉に紗季未は頭を振る。
「自分の他に一人でも起きている人がいる限り、私が寝る訳にはいかないよ」
すると、三俣は右肘で僕を小突いた。
「ここは彼氏の出番だよ。『調合』は私たちに任せて、行っといで」
僕は頷き、紗季未の手を取って、言った。
「責任感が強いのはいいことだけど、それで明日の指揮が取れなくなったら、僕たちは負けてしまうよ。一緒に来て」
「え? でも」
僕は紗季未のその言葉には答えず、手を引いて、校舎内の無人の空き教室に入った。
ぽすっ
紗季未は教室に入るを待っていたかのように僕にもたれかかったんだ。
「こうちゃん。ごめん。そして、ありがとう。本当はすごい疲れてる。それに眠い」
僕は笑顔でまた頷いた。僕も僕の前でだけ素直な気持ちを言ってもらえて嬉しいんだ。
僕が机をいくつか集めると、紗季未は蜂の針を一振り。そこは綺麗なベッドになった。
「本当は一緒に寝てほしいけど、今は駄目だね。『オオスズメバチ』に勝ってからだね」
「ううっ、上目遣いにそんなこと言わないでよ。いくらヘタレDTったって、僕も健康な高校生男子なんだから」
「ふふ。じゃあ、一つだけお願い。私が寝る前にキスして」
おうよっ! いくらヘタレDTでもそれぐらいはやったる。
僕は目をつぶって待っていてくれる紗季未の顔にゆっくりと自分の顔を近づけた。
…… ……
…… ……
…… ……
ジャバーッ
なっなななっ何っ? 何っ?
あぢ、あぢ あぢぢぢ うわっ 頭からいきなりかけられた これってラーメンスープ? それも牛乳ラーメンのっ?
後ろを振り返るとラーメンどんぶりを持った蜂野先生がっ! なんでここに先生が?
「いやー、お腹が空いたもんで疲労子ちゃんに牛乳ラーメン出前してもらって食べようとしたら、何とヘタレDTの分際でリア充してる奴がいるじゃないのん」
「だからって、何でいきなりラーメンスープ頭からぶっかけるんですかっ?」
「知らないのん。偉い人が言ってるのよん。『リア充爆発しろ』『リア充撲滅しろ』『リア充ラーメンスープぶっかけられろ』ってねん」
何なんですか、そりゃもう。




